セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.109『傷を舐める』

オピニオン

2006-05-29

 5月は、大型連休直前の大幅値上げに長雨が追い討ちをかける形となり、全国的にガソリンの売れ行きは振るわなかったようだ。私の店も、4月に引き続いての販売不振で、毎日のように溜め息をついていた。6月はどうなるのだろうか。ハァ~。

 人間だれしも不安に駆られると、自分と同じような境遇にある人を捜し求め、不安を共有しようとするものだ。親しくしていただいている幾人かの同業者の方に電話をすると、やはり、「昨日はうちのスタンド開業以来、最低の販売量だったよ」とか、「もううつ病になりそうだよ」といった返事が返ってくる。

 「売れなくなると、採算を度外視して価格を下げたり、集客キャンペを行なったりしたくなるが、今回の販売不振はこれまでとはちょっと違う。いよいよ、本格的な減販時代の到来を予感させる。とにかく、いまはあせって動くべきじゃない。余計な損失や無駄な出費をしないよう、じっと耐えるしかないよ。業転ガソリンを仕入れて、ローコスト・セルフで営業している我々がここまでしんどい思いをしているということは、よそのスタンドだって苦しいに決まっている。資金繰りが滞らないようにだけ気を配って我慢していれば、近い将来また状況が変わってくると思う。それまでがんばろうよ、和田さん」─。

 先輩経営者のこうした励ましの言葉を聞くと、少し気分が楽になったりする。論理的・科学的な根拠が有る無しに関わらず、共に苦しみを分かち合っているという意識が、免疫機能に良い影響を及ぼしているのかもしれない。同じ病気を患っている人同士やある事件の被害者同士が集まり合って、苦しみや悲しみを共有しようとするのに似ている。

 「そんなものは傷の舐め合いに過ぎない」という方もおられるだろう。だが、傷を舐めることはまったく無意味な行為かといえばそうでもないと思う。実際の唾液は99%が水分だが、残りの1%に殺菌効果のある成分や細胞の成長を促す因子が含まれており、傷の直りを早める役目を果たす。傷を舐めることは、理にかなった治療法というわけだ。

 「ウチなんてこうだよ」「オレのところもこうなんだ」などと愚痴を言い合うだけならあまり建設的な“舐め合い”とはならないが、仕入れ格差の情報や経費削減のノウハウといった有効成分が含まれているなら、意義ある“舐め合い”になる可能性がある。同業者にあって、悩みや痛みを率直に語り合え、なおかつ、実際的な励ましや慰めを与えてくれる友人がいるなら、さぞかし勇気付けられることだろう。

 もちろん、最終的には、経営者自身の責任において各々が苦境を乗り超えてゆかねばならない。元売が推し進める量販政策に安易に乗って傷口を広げるような愚をおかしてはならない。元売は傷口を舐めてくれるどころか、バンドエイド一枚すらおいそれとは貼ってくれないだろう。省エネ・人口減による低成長時代を迎えた日本のガソリンスタンド業界にあって、これからはますます思慮深さが求められる。その意味でも、セルフはいよいよローコスト戦略に沿った運営が必須条件であると私は確信している。

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