和田 信治
エンタメ・スポーツ
2006-07-31
「トイ・ストーリー」「モンスターズ・インク」などのCGアニメ映画でおなじみのピクサーの最新作「カーズ」。小学生の息子を連れて観に行ってきた。明るく滑らかなCG映像技術はますます磨きがかかり、目を見張るものがある。毎回擬人化されたおもちゃや虫や魚たちが観る者を笑わせ、泣かせるのだが、今回のキャラクターは工業製品の自動車たち。とはいえ、フロントガラスに付けた目玉とバンパーの口で愛嬌ある表情を作り出し、感情移入させる手腕はさすがピクサーだ。
自動車たちの世界が舞台だから、彼らの食べ物といえば当然ガソリン。「腹が減った」と言ってレストラン(ガソリンスタンド)に行き、自分でノズルを突っ込んでガブガブと“食事”をする。「ちょっと一杯」と言って、オイル缶をビールのように飲み干す仕草も笑える。彼らの住む街には診療所(整備工場)も、靴屋(タイヤショップ)も、ブティック(ボディペイント)もある。健康食品ならぬ“無添加燃料”を売る店まであり、それらはみんな自動車たち自身が経営しているのだから、いわば究極のセルフの世界だ。
映画は、毎度おなじみの「愛と感動」という枕詞が付く無邪気な物語で、大人には少々退屈な内容だが、現実社会でこの映画のようにクルマたちがモノを言う事ができれば、きっと「まったく最近の原油高には困ったもんだよ」と愚痴をこぼすに違いない。「たまには腹いっぱいハイオク食ってみてぇな~」と嘆いているスポーツカーや、「食費をうかすために安酒(灯油)で我慢するか」なんてぼやいているディーゼルトラックがいるかもしれない。
「あら奥様、お肌がすべすべですわね」「この間フルコースのポリマー洗車してもらったんですのよ」「まぁ、あれって結構お高いんでしょ?」「ええ、まぁ…ホホホ」なんて会話をしているメルセデスや、「あそこの診療所にかかったらかえって具合が悪くなっちまった」とか、「水抜き剤なんか何本飲んでもちっとも効き目が無いわい!」なんてブツブツ文句を言っている年寄りのクラウンやセドリックもいそうだ。
こんな空想にふけるのも、セルフスタンドで店番をしていると、客との接触が無くなり、モニター画面を通してクルマそのものが来店しているように感じる事があるからだ。彼らは、セルフになって、昔のように窓を拭いてもらったり、タイヤを洗ってもらえず不満を感じているのだろうか。それとも、べたべたと触られたり、体の中をいじくられなくなり、喜んでいるのだろうか。彼ら自身に尋ねてみたい気もする。
映画の話をもう一つ。自動車が人格を持つというお話は過去にもいろいろあるのだが、ホラー小説の帝王ステーブン・キングの原作を映画化した「クリスティーン」(1983年・米)は、“クリスティーン”と名付けられた58年型赤のプリマスが、邪悪な意志を持ち、自分の持ち主の青年をいじめる同級生を次々に轢き殺してゆくというB級ホラー映画だ。クリスティーン(当然性別は女だ)は遂には青年の恋人に嫉妬し、彼女をも殺そうとする。興味のある方はお近くのレンタルビデオ店へ。
もし、いまこんなクルマが現われたら、差し当たり標的になるのは、石油を投機の対象としてもてあそんでいる投資家や、供給を引き締めて価格を吊り上げている元売や、石油や自動車に高い税金をかけている役所や、カーケアと称して余計なものを売りつけているガソリンスタンドといったところだろう。じっと耐えている持ち主(人間)に業を煮やし、自動車自身が彼等に襲い掛かる─。面白そうではないか。だれか映画化してくれ。
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