セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.129『お金を借りること』

社会・国際

2006-10-16

 今年のノーベル平和賞は、バングラデシュの農村で女性たちに無担保融資を続けてきた「グラミン銀行」と、同銀行を設立したムハマド・ユヌス総裁に贈られることが決まった。米国で経済学を学んだユヌス氏は、母国バングラデシュの大飢饉(74年)をきっかけに、貧困層の救済活動に身を投じ、担保がないため通常の銀行融資が受けられない女性を対象にした無担保小額融資(マイクロクレジット)を行なうグラミン銀行を設立した。物乞いをするしか生きてゆく術のなかった人々、とりわけ農村の女性たちの経済的自立を支援することにより、いわゆる“草の根”の平和運動を推し進めてきたことが高く評価され、今回の授賞となった。

 私はこのニュースを聞くまで、グラミン銀行とその活動についてまったく知らなかった。消費者金融によるあくどい貸付によって、毎日のように自殺者を出しているどこかの国とは大違いだ。ユヌス総裁は「貧しい人たちが金を借りるのは援助ではない、権利だ。貧しい人には能力があり、単に資本に対するアクセスがないだけだ」と語っているそうだが、零細企業を門前払いする日本の銀行関係者に傾聴していただきたい言葉である。

 さて、貧困層とまでは言わないまでも、ガソリンスタンド経営者の多くは、日々資金繰りに頭を悩ませておられるに違いない。ガソリンスタンドを生業としている者で、「いや~もうかって仕方がないよ」などと言っている人にはとんとお目にかかったことがない。金融機関は、ガソリンスタンド業界の慢性的赤字体質を知り抜いているため、新たな融資には消極的である。私の知るある石油卸会社の社長(いわゆる業転屋さん)から聞いた話だが、取引銀行から「油槽所の建設やタンクローリーの購入には融資しても良いが、ガソリンスタンドの建設には融資できない」とハッキリ言われたという。つまり、あんな儲からないものを作るのに貸す金はないということなのだろう。

 確かに、厳しい価格競争で疲弊しきったガソリンスタンド業界は、金融機関から「要注意先」のレッテルを貼られても仕方がないのかもしれないが、こんな話もある。数年前の話だが、あるスタンド経営者が廃業もやむなしと判断した矢先、取引金融機関の担当者から、「社長、思いきっていま流行りのセルフ方式にしてみたらどうですか。そうすれば人件費もいまほどかからないでしょうし、私も上(審査部門)にあげやすいですから」との提案を受けた。迷った挙句、思いきって融資を受けてセルフスタンドに改造した結果、きょうまで商売を続けている。

 グラミン銀行は、これまで660万人の貧困層(97㌫が女性)に総額50億㌦を貸し付けているのだが、貸し倒れの比率はなんと1㌫程度だという。その秘訣は、借りる人をよく調べて話を聞き、無理のない資金計画を立ててあげることなのだそうだ。当然のことをしているだけのようにも思えるが、やはりどこかの国で、担保さえあればよく調べもせずに貸し、あとになって不良債権の山に苦しんだ銀行がいかに沢山あったことか…。

 「組織的に貧困対策を取るには、当事者に責任を与えることだ。金を借りて利息を返し、自分にも幾分か残す。責任を持つとはそういうことだ」とはユヌス総裁の言葉だが、グラミン銀行が、借り手の側のことを真剣に考えて融資していることがうかがえる。

 セルフスタンドへの改造は、少なく見積もっても1千万はかかる、零細企業にとっては大きな投資だ。前述のセルフスタンドのように、金融機関もセルフシステムについてよく研究し、ローコストオペレーションについて適確な助言をしながら、あと押ししてもらいたいものである。

 再びユヌス総裁の言葉─「慈善(チャリティ)は悪だ。我々もよく物乞いの子どもたちに道端で取り囲まれたが、「恵んであげる」のは、相手が「かわいそうなもの、自分より下なもの」という意識があることの表れである。チャリティを施すことによって、相手から自尊心や自立心を奪い、結局その人たちのためにならない」。

 セルフ化にあたり、インセンティブという元売からの“施し”を受けることは、一見、リスクを軽減する得策のようにも思える。しかし、それゆえに元売の命じるままのセルフスタンドとなることは、経営者が「自尊心や自立心」を捨ててしまうことにならないだろうか─。

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