セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.130『マークはそれほど大切か』

政治・経済

2006-10-23

 毎週木曜日午後10時からNHK総合テレビで放送されているドキュメンタリー番組、「プロフェッショナル─仕事の流儀」。今月19日放送の第29回には、ローソン社長・新浪剛史氏が登場した。5年前に若干43歳で三菱商事の一サラリーマンからローソン社長に転進して以来、全国8,300店舗16万人を率いて熾烈なコンビニ戦争を闘ってきた新浪の姿をカメラは追う。

 毎年、売り上げを伸ばし、好調と言われるコンビニチェーンだが、実は構造的な問題を抱えている。本部は、新規店舗を増やすことで売り上げを伸ばし続けてきたが、各社の出店競争が激化するなか、各加盟店の売り上げは、7年連続で落ち込んでいる。

 事態を深刻に受け止めた新浪は、批判の中にこそ改革のヒントがあるという信念から、加盟店の店主を集めて直接、現場の本音を聞き出すという新たな試みを始める。その場で新浪は、意識改革の一環として、31年間慣れ親しんできたローソンの青い看板の色を変えることを提案し、加盟店主たちから猛反対に遭う。これを観ていて私は驚いた。

 コンビニ加盟店の店主たちは、ガソリンスタンド業界で言えばSSマネージャーに似た人たちである。石油元売の社長自らが、そうした人たちの口から出る不満や不安に直接耳を傾けるといった光景は見たことも聞いたこともない。ボロクソに批判されることも覚悟のうえで、彼らの中に飛び込み、本音で語り合う新浪のような人間は、石油元売の経営者の中にはいない。

 また、新浪は看板の色を一新することを何とか加盟店主たちに理解してもらいたいと、一生懸命に説得してまわるのだが、ガソリンスタンド業界では、元売の社長が、そんなことをいちいち特約・代理店主に説明し、納得してもらうなどということはない。どんなにダサイ色や形の看板でも、文句を言わずに掲げるのが系列店というものなのだ。

 もう一つ驚いたことは、コンビニ店主たちが、看板の色を一新することに、ものすごく抵抗する様子である。皆が口々に「愛着がある」「他の色など考えられない」などと言って反対するのだが、もし私があの場にいたら、「そうですね、新浪さん、ひとつ生まれ変わるつもりでやってみますか」と軽いノリで言いそうな気がする。そもそも、看板を替えることに、新浪氏も、店主たちも、なぜあれほど苦悩するのかが私には理解できなかった。

 そんなわけで私は、改革にまい進する若き経営者のエネルギッシュな仕事振りに感心しながらも、一方では、「たかが看板じゃないの…」との失笑を禁じえなかった。ガソリンスタンド業界においても、元売はしばしば「ブランド力」という言葉で、系列傘下にあることの優位性を強調するのだが、肝心の客の多くは、きのうまで赤かったスタンドが黄色に塗り替えられたところで、何とも思わない。マークが無くなったとしても、ほとんどの人は気付かない。いや、かえって「長年このマークを掲げてやってきたから」と、元売の「ブランド力」とやらに頼っていると、経営の自主性が失われてゆく恐れがある。セルフ化においても、多くのスタンドではマークがかえって“足かせ”となり、本来のローコスト経営の妨げとなっている。

 一方、独立系のセルフスタンド経営者が、コーポレート・アイデンティティだとかナントカ言って、“素晴らしいデザイン”のマークを掲げて一人悦に入ったところで、客はそんなもの気にも留めていない。彼らが注視しているのは、ただ一つ、店頭価格看板の数字だけなのである。

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