セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.142『参 謀』

GS業界・セルフシステム

2007-01-22

 今年のNHK大河ドラマ「風林火山」の主人公は、武田信玄の軍師、山本勘助である。一介の牢人であった勘助は、信玄に兵法家としての才能を認められ、無敵を誇った武田軍の参謀として辣腕を振るった。古今東西を問わず、強い組織には、優れた指揮官だけでなく、優れた参謀もいるのが常である。例えば、山本五十六の傍らには黒島亀人がおり、本田宗一郎の陰には藤沢武夫の存在があり、川上哲治の隣には牧野茂が寄り添っていた。

 一言で参謀といっても、その役割は様々である。真珠湾を航空機だけで攻撃するという山本のアイディアを具体化させていった黒島は、文字通り作戦参謀である。暇さえあれば自らスパナを握って製品開発に没頭していた本田にとって、資金調達や財務管理を一手に仕切った藤沢は、主計参謀といえる存在だった。川上はしばしばベンチにどっかと腰を下ろし、采配をすべて牧野に任せていたという。こうなると「影の指揮官」である。

 さて、ガソリンスタンドの経営においても、参謀格の人物がしばしば存在する。社長の命を受け、計画実現のための段取りを付け、自ら現場に赴いて指揮を取る人もいれば、銀行や元売との交渉や資金繰りを任されている人もいる。社長から経営全般を委ねられ、事実上の経営者となっている人もいる。役回りは異なれど、いずれも社長からの厚い信頼と、部下から畏敬の念を抱かれている存在─それが参謀、あるいはナンバー2と呼ばれる人物である。

 スタンドのセルフ化を推進するにあたっても、こうした“参謀格”の存在は重要である。例えば、社長が自社スタンドのセルフ化を決断する。参謀格の人物には、社長の意向を理解しつつ、最適な戦略を練ることが求められるかもしれない。あるいは、予想売上や予算計画の提出を求められるかもしれない。販促計画の立案や人員配置の策定も専ら参謀の仕事である。時には、「当社で初めてのセルフスタンド」ということで、初代マネージャーに任じられるかもしれない。そのような立場に置かれたある会社の参謀格のマネージャーは、そのときのことを振り返り、「プレッシャーで夜も眠れませんでしたよ」と語っていた。「それまでセルフなんてやったことなかったですからね。もし失敗したらどうしようかと」─。

 そのマネージャーは、セルフスタンドを見事に立ち上げ、成功させた。いまでは3店舗にまで増えたその会社のセルフスタンドの責任者として采配を振るっている。また、別の会社はローコスト・セルフスタンドをオープンさせるにあたり、新たに新規部門を設け、その責任者に小売りの経験のない卸売り部門のマネージャーを起用した。私は、ずいぶんと思い切った人事をするなぁと思ったのだが、そのマネージャーは、「いや~、毎日が新鮮で楽しいですよ」と、驚くほど明るく前向きに任務に取り組み、この店を軌道に乗せようとしている。

 あとで聞いてみれば、当初は従来のスタンド部門から責任者を充てようと考えていたらしいのだが、だれもが「あんな給油だけのスタンドが成功するものか」といやがり、やむなく件のマネージャーに任せることにしたのだと言う。しかし、怪我の功名ともいえる人事によって、この会社にもセルフ専門家が一人誕生したことになる。

 私は、セルフスタンド成功の鍵は、あくまで指揮官である経営者の決断と実行力であると思う。しかし同時に、計画成功に向けて、忠実かつ熱心に行動する参謀の力は非常に大きい。そのような人たちには、セルフについてよく研究してもらい、社長に、最善の航路を進むことができるよう助言や提案をする責任がある。山本勘助は、とりわけ築城術において際立った才能を発揮したと言われるが、どのようなセルフスタンドを作るかは、その会社の命運を左右する大事と言って良い。いま、ガソリンスタンドの経営に必要な人材は、セルフに関する理解力と行動力を持つ“セルフ先任参謀”ではないだろうか。

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