セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.146『水抜き剤をぶちこめ!』

GS業界・セルフシステム

2007-02-19

 従業員のYが、今年のはじめに実家の長野に帰った時のこと。インターを降りてしばらく行ったところで、ガソリンスタンドに給油に立ち寄った。フルサービスのスタンドで満タン給油をしてもらっている間店頭を見渡すと、各アイランドに、水抜き剤の入った箱が積み上げられており、隣のポリバケツはカラの容器があふれそうな状態になっていた。“へぇ~、この店は結構水抜き剤を売ってるんだなぁ。それにしても俺には勧めにこないなぁ”などと思っているうちに給油が終わり、精算となった。

 「お客さん、レギュラー○○リットルで○○円です。ついでに水抜き剤を2本入れておきましたので、合計で○○円です」

 「えっ?!そんな物、入れてくれって頼んでないよ!」

 「いや、この時期には燃料タンクの中に水滴が溜まりますので、これは入れておかないとダメなんですよ」

 その理不尽な言い草に腹を立てたYは、自分はガソリンスタンドに勤務していて水抜き剤がどのようなものか知っているし、もし必要な物だとしても、断りもせずに勝手に入れるなんて非常識じゃないかと抗議した。ところが、従業員は、相変わらず「でも燃料タンクが…」などと言っているので、店長に抗議し、ようやく謝罪を受けることができた。当然、水抜き剤の代金は払わなかった。「あんなふうに、とにかく勝手に水抜き剤を入れておいて、払ってもらえたらラッキーみたいな仕方で売りつけているんですね~」とYは苦笑していたが、断りきれずに水抜き剤を買わされた客は、もう二度とあのスタンドには行かないだろう。

 水抜き剤がまったく効果のない代物だとは言わない。しかし、一方で、客から“水抜き剤を入れてもらったおかげで、車の調子がすごく良くなった。ありがとう!”なんて感想を聞いたこともない。インターネットで『水抜き剤』を検索すると、あちこちのサイトに「水抜き剤ってホントに要るの?」という疑問が書き込まれている。そもそも、水抜き剤を売っているスタンドの店員自身が、その効力を疑っている。そんな代物を、キャンペーンだか何だか知らないが、一言の断りもなく勝手に注入して金を取るなんて、商道徳にもとる行為ではないか。

 私は、水抜き剤を“油害”商品と呼んでいる。それは、客にとってそうであるだけでなく、売る側にとってもそう呼ぶことのできる商品だと思う。多くのガソリンスタンドは、洗車や整備で稼ぐという本来のカーケアサービスのかたちが、人手不足や技能不足で崩壊してしまっており、手っ取り早く、簡単に油外収益を稼ぐために水抜き剤キャンペーンに走る。しかも、昨今のガソリンマージンの低下で、油外収益への依存度がますます高まり、冒頭のYが遭遇したような、なりふり構わぬ乱暴な売り方が横行するようになっている。ちょうど、知識も技術も三流のやぶ医者が、患者の無知をいいことに、効き目があるかどうか分からない薬を説明もせずに処方して稼ごうとするのに似ている。

 かくして、かつては愛車のことを相談できる最も身近な存在であったガソリンスタンドは、水抜き剤キャンペーンを繰り返すごとに、ドライバーの信頼を失っていったのである。それでも、肝心のガソリンを買うためにはスタンドに行かねばならない。ならば、勝手に水抜き剤を入れられたり、しつこくオープンボンネットを迫るフルサービスよりは、自分で給油するセルフサービスのほうが良い─ということになる。

 相変わらず、「給油だけのセルフは生き残れない」というのが業界の通説のようだが、私は、多くのガソリンスタンドが、水抜き剤のようなものを売る限り、“押し売りをしない”セルフスタンドは、これからも一定の支持を得てゆくと考えている。事実、私の店に来る客の中にも、給油口に、かつてのガソリンスタンドで売りつけられた『水抜き剤注入済み』のステッカーが幾重も貼り付いている人が少なからずいる。「ここはあれこれ売りつけられないからいいわ~」という言葉をいただいたことも一度や二度ではない。そういう意味では、他店の水抜き剤キャンペーンに感謝すべきなのかもしれない。

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