セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.152『リセットするのか、しないのか』

オピニオン

2007-04-02

 『東京再起動宣言』─3選を目指す石原慎太郎・東京都知事のマニフェストの表題である。2期8年の実績を強調しつつ、交際費や海外出張などでの「都政の私物化」批判を受け、コンピュータに例えて、「再起動」での出直しをはかるということらしい。“出直し”というネガティブな表現を、“再起動”という、いま風の表現に置き換えて、何となくポジティブな印象を抱かせてしまうところが、作家でもある石原氏らしい巧みさだなと感じた次第。

 『Yahoo!コンピュータ用語辞典』によれば、「再起動」とは、「リブート、リスタートとも呼ばれ、周辺機器やアプリケーションソフトをシステムに追加した場合や、システムの設定を変更した場合などに必要となる」操作のことである。大抵は、OSの操作メニューの指示通りに進んでゆき、最後に『いますぐ再起動しますか』という表示が出てくるので、『はい』を選択するだけだ。私など、再起動後に何がどう変わったのか、違いが分からない場合が多い。「再起動」なんてその程度のことだ。

 しかし、「再起動」の同義語と誤解されている別の言葉は、とても大きな影響をもたらすものだ。それは、「リセット」である。リセットは、追加や改良と言った規模のものではなく、制御不能となったシステムを強制的に終了させ、かつ、起動し直すことだ。下手をすると、それまでのデータを失ってしまう恐れもある“荒療治”なのだ。都知事選に例えれば、ドクター中松が知事になるぐらいの大変革と言える。

 ガソリンスタンドのセルフ化というは、リブートやリスタートなんて穏やかなものではなく、リセットと言うのがふさわしい。例えば、それまで掛売り客が大半を占めていたスタンドがセルフ化するということは、従来の得意先の大半を失う恐れがある。客自身に給油をしてもらううえに、原則、現金決済となるため、多くの掛売り客から敬遠されてしまうからだ。

 しかし、中には、改造前に掛売り客をまわって丁寧に説明し、セルフ化後もプリペイドカードを掛売りで一括購入してもらうことでそれらの客を残しながら、着実に売り上げを伸ばしているスタンドもある。一方、それまで月間50キロ㍑ほどあった掛売り客を、改造工事に入った途端バッサリ切り捨て、改造後その10倍以上の現金客を獲得したスタンドもある。どちらも、セルフ化という“リセット”によって、大胆な変身を図ったことが功を奏したといえる。

 だが、まだまだ大半のスタンド経営者は、自分の店をリセットするところまでは思いが至っていない。このまま行けば早晩店をたたまざるを得ないという状況に置かれていても、わずかばかりの掛売り客を失うことへのためらいや、客に給油させることへの罪悪感(!)ゆえに、セルフ化に踏み切れないでいる経営者は、セルフスタンド件数ナンバー1の愛知県でも、案外多い。中には、「私はセルフ化するしか道はないと思うのですが、従業員が反対するものですから…」と言い訳する社長もいる。あなた、それでも経営者ですか?と問い質したくなるね。

 「リセットして、客や従業員を失ったらどうしよう」─。確かに、セルフ化はスタンド経営者にとって重大な決断である。しかも、セルフスタンドへの変身には、一千万から二千万円近い投資が必要となる。迷うなと言う方がうそになる。私は、そのような経営者に三つの選択肢を提示している。一つは、セルフ化すること。テクナシステムを導入すれば、投資コストも、運営コストも他社のシステムよりも低く抑えられるので、これをお勧めする。二つ目はやめること。つまり廃業。この提案に従い、土地をコンビニに貸したり、駐車場にして赤字地獄から逃れた方もいらっしゃる。撤退するのも立派な経営決断である。

 だが、私が最も苦手で、疲労感を覚えるのは、古き良き時代を懐かしんでばかりいて、一向に将来に向けての具体的な事を述べようとしない人や、現在の窮境をすべて元売のせいにして、その恨みつらみを語ることに時間を費やす人の相手をすることだ。いつまでもリセットできずにいるそのような人には、第三の選択肢を提案することにしている。いまのまま、何もしないでいたらどうですか、と─。

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