セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.155『爆発しますよ』

GS業界・セルフシステム

2007-04-23

 このコラムで、しばしば取り上げている「水抜き剤」。ガソリンスタンドの評判をおとしめる、悪しき油外商品の象徴として攻撃してきたが、この前、こんな話を聴いた。あるスタンドで、水抜き剤のキャンペーンをやったところ、入ったばかりの高校生のアルバイトがダントツの販売成績をあげた。一体どんな才能があるのかと思ったら、必殺のセールストークを持っていた。「お客さん、水抜き剤を入れないと車が爆発しますよ!」─(爆)。

 いや~、すごいセールストークだなぁ~、って言うか、これセールストークじゃないだろ!なかば脅しだろ!それにしても、こんな無茶苦茶なことを言われても、「ああ、そうですか」と水抜き剤を買う客も客だよな~と思っていたのだが、その子にはもう一つ、強力な“必殺技”があった。それは笑顔だ。私はその子に会ったこともなければ、名前も、性別すらも知らないので、何とも言えないが、さぞかし憎めない笑顔で「爆発しますよ!」と勧めていたに違いない。

 水抜き剤のような毒にも薬にもならないような商品でも、笑顔の力で買わせることができる。逆に、どれだけ優れた商品でも、どれほど論理的な説明でも、店員の態度が悪ければ買ってもらえないだろう。商売とはそんなものだ。

 客との接触が少ないセルフスタンドで、いかにして油外収益を上げるか。いま、業界内では専らこの事が課題となっている。多くのスタンド経営者が、寝ても覚めても「油外、油外」と考えており、そんなニーズを狙った様々なプログラムやシステムが開発されている。

 まずは、「油外収益向上セミナー」といった類の研修プログラム。ひたすら「感動」とか「情熱」といった単語が連呼される、道徳の授業のようなものがあるかと思えば、「来店台数×声かけ回数」みたいな方程式を教える、数学の授業のようなものもある。また、朝のラヂオ体操に始まって終日接客トレーニングを行なう体育会系の研修もある。「給油中の客に声をかけるときは1.5㍍の距離から」とか「挨拶するときは帽子のつばを持ちながら15度の角度で」といった細かい指示が記された接客マニュアルも、元売各社から配布されている。

 一方、人間力に頼らず、テクノロジーの力で油外収益をあげようとする試みもさかんである。例えば、IDカードや場内カメラなどを利用して、顧客の来店頻度や購買状況のデータを収集し、来店客にタイムリーな商品提供をするというシステムがあり、カードやカメラによって識別・通報された情報に基づいてオペレーターが待機しているスタッフに指示、直ちにスタッフは商談に向かうという仕組みだ。しかし、いかに有効な顧客情報をつかんでいても、肝心のスタッフがそれを巧みに活用して商談を成立させない限り、収益には結びつかない。そうなると、結局、人材育成が大切だということになり、何とかセミナーとやらに参加せざるを得なくなる。

 だが、冒頭で紹介したように、高度な訓練も受けていなければ、正確な情報も持ち合わせていないバイト社員が、ただニッコリ笑いながら、「これ入れないと車が爆発しちゃいますよ~」と手当たり次第に来店客に声をかけ、水抜き剤を売りまくっているという話を聴くと、頭の良い人たちが、知恵を絞って作りあげたプログラムやシステムは、一体何なんだろうという思いに駆られる。やれ目標管理だ、やれ顧客情報だなどと躍起になっているのがこっけいにすら思えてくるのだ。「売上倍増」とか「百発百中」といった宣伝文句に惹かれて、高い研修費や設備費を支払う前に、経営者自身がセルフスタンドの店頭に立ち、ニコニコ笑って客を出迎え、こう声をかけてみてはどうだろうか。「お客さん、お車の点検しましょうか?爆発しちゃうといけませんから」─。

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