セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.158『ヤクザ』

GS業界・セルフシステム

2007-05-21

 私のスタンドがある愛知県日進市の北隣に、長久手町という町がある。今月17日から18日にかけて、元暴力団員が拳銃を持って立てこもり、警察官を死傷させた事件は、普段静かなこの街を恐怖のどん底に陥れた。現場周辺には非常線が張られたため、近所のガソリンスタンドも休業。とんだ災難である。とはいえ、流れ弾で従業員や客に危害が及ばなかったのは幸いであった。

 それにしても、先月の長崎市長射殺事件といい、このところ、拳銃による殺傷事件が頻発している。ガソリンスタンドのスタッフがその災禍に見舞われる危険性は十分にある。特に、スタッフが一人か二人で店番をしているセルフスタンドでは、今後、セキュリティの一層の強化が必要だろう。冗談抜きで、「防弾チョッキを着用すること」なんて就業規則が設けられるかもしれない。私たちは、これから先、この国の治安が良くなってゆくということはまず無いとの認識に立って、営業しなければならないだろう。

 長久手町の立てこもり事件の男は、元暴力団員。近所では、以前から“キレやすいオヤジ”と恐れられていたという。どこのガソリンスタンドにも、“気をつけて応対しなければならない客”が一人か二人はいるものだ。それは必ずしも、外車に乗り、スウェットを着込んだ、パンチパーマやスキンヘッドの男とは限らない。一見、普通の市民のように見えて、突然粗暴な性向をむき出しにする人間はたくさんいる。

 以前私のスタンドであった出来事。スーツを着た会社員風の男性が、計量機の前に車を止めると、クラクションをけたたましく鳴らし始めた。どうやら、“従業員出て来い”という合図らしい。スタッフが私の言いつけを守って知らん顔をしていると、隣のレーンで大型外車に給油をしていた、見るからにそのスジのオッサンが、「うるせぇぞこの野郎。ここはセルフなんだからテメェで給油しろ!」と怒鳴りつけた。

 怒鳴られた男は、憮然としながら券売室に入ってくると、スタッフルームのドアをドンドン叩いて、「おい、給油しに来い!」と叫びだした。ドア越しに、「当店はセルフサービスですから給油はいたしません」と断ると、男は車に戻って、またもやクラクションを鳴らし始めた。ぶち切れたのは隣の外車のオッサンだ。男を車から引きずり出すと、「やかましいって言ってるだろうが!殺すぞ!」と激怒。さすがに、男は怖くなったのか、一目散に出て行った─。

 結果的に、外車のオッサンは用心棒の役目を果たしてくれたことになるが、とにかく、「君子危うきに近寄らず」、セルフスタンドでは、客との接触は出来る限りしないようにすることが、ローコストとセーフティを両立させるための秘訣である。“お客様とのふれあい”も結構だが、それには危険性も潜んでいるということを肝に銘じておかなければならない。客同士がけんかになっても、のこのこと仲裁に入ったりしないこと。下手をすると、「そもそもお前がちゃんとしなかったからだ」などと、とばっちりを食らう危険性大である。けんかが収まらないようなら、即110番するに限る。

 ところで、あるセルフスタンドの経営者が、こんなことを言っていたのを思い出す。『和田さん、セルフにして良かったですよ。セルフにしたら、全然ヤクザが来なくなったんです。ヤクザというのはね、ガソリンスタンドの店員をつかまえて、あれよこせ、これよこせと威張ることがでなきゃいやなんでしょうな。ところが、セルフスタンドは、従業員がいないばかりか、自分で給油しなくちゃいけないでしょ。カッコ悪いんでしょうね。おまけに、監視カメラでじっと見られているから、落ち着かないんですかね。ヤクザはセルフが嫌いみたいですよ』─。なるほど。セルフには、そんな効能もあったのかと気付かされた次第。

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