セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.166『業転米』

GS業界・セルフシステム

2007-07-16

 終戦直後、日本は深刻な食糧難にあえいでいた。食糧管理法という法律の下、すべての食料は配給によって賄われるはずであったが、この法律を守っていたら十分な食料を得ることができず、餓死しなければならなかったので、国民はやむなく闇市でその不足を補い、命をつないでいた。

 そんな中、山口良治という東京地裁の判事は、自分は法律を守る立場の人間である以上、いかなる悪法であってもそれを破ることはできないといって闇食料を一切購入しなかったために、栄養失調で死亡するという事件が、昭和22年10月に起こった。34歳の若さであった。この事件は当時話題となり、以後日本政府は食糧増産に全力を挙げることになる。

 なぜ、こんな昔の話を引き合いに出したかというと、昨今の業転価格の高騰によって、いわゆる系列回帰現象が起きているという報道に接したからである。これまで、かなりの件数のガソリンスタンドが、元売から“配給”される油だけでは生命を維持することがかなわないため、業転という“闇米”を仕入れて、どうにか生き長らえてきた。中には、系列特約店会の役員や、地元石商の幹部という立場ゆえに、業転を仕入れることを一切拒んできた結果、山口判事のように“餓死”してしまった会社もある。

 その頼みの綱である業転ガソリンが、まるで示し合わせたかのように同時多発した製油所トラブルなどの影響で、大幅に値上がりしているのだ。ならばもう浮気をやめて、“本妻”である元売のもとに帰ろうかということで、「系列回帰」となるわけだが、それでめでたしめでたしかといえば、そうでもない。今後は二度と浮気をしないよう誓約書に判をつかされ、食糧管理法さながらの統制下に置かれることを覚悟しなければならない。

 あるスタンド業者は、系列特約店でありながらも、これまで業転を一定量仕入れていたのだが、今回系列へ侘びを入れ、全量引取りを申し出たところ、今後一滴でも業転を仕入れたら供給証明を出さないぞと申し渡され、誓約書を書かされたという。

 また、別のスタンド業者は、元売のカードキャンペーンに参加して、目標枚数を獲得することで恭順の意を示すよう求められたという。「本当に愛しているのは君だけなんだ」「じゃあその事をカタチで示してちょうだい!」というわけだ。まあ、浮気の代償と言われればそれまでだが、元売が以前にも増して、系列店を隷属化しようとする意志が見てとれる。もしまた業転に浮気することがあれば、今度こそ厳しい制裁を受け、餓死させられてしまうかもしれない。

 しかし、元売がそこまでして系列化を強化しても、それら系列店が思惑通りに油をさばいてくれなければ、売れ残った油は結局また業転という“闇市”に流れてゆくことになるだろう。マーケット制圧のための切り札として、元売が頼みとする大型セルフスタンドも、最近では過当競争によってかつてほどの販売量が見込めなくなっている。東海地方のある商社子会社傘下のセルフスタンドは軒並み前年割れの販売量だとか。

 それにしても、当の元売は、量を絞ってでも利幅を確保する方策を採っているというのに、小売業者であるガソリンスタンドは、業転だ、いや系列だと、右往左往しながら相変わらず薄利多売に血道をあげているというのは何とも悲しい話である。元売は、そんな小売業者たちを内心、蔑んでいるのではなかろうか。ガソリンスタンドが販売量を競い続けている限り、仕入れているのが“配給米”であろうが、“闇米”であろうが、いつまで経っても“飢餓状態”から解放されることはないだろう。

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