セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.186『性悪説の悪夢』

GS業界・セルフシステム

2007-12-10

 今月6日、ジャパンエナジーの子会社「JOMOネット南関東」から川崎市内のスタンドの運営委託を受けていた代理商社長(62)が売上金を着服し、帳尻を合わせるため、ガソリンや潤滑油などの代金に着服額を分散して上乗せした金額をクレジットカード会社経由などで顧客に請求するという手口で、約4年半にも渡って計約5,700万円を不正請求していたことが明らかになった。着服は業務委託契約が始まった2000年から行なわれていたとされており、被害総額は最大8,300万円程度に上るとみられ、ジャパンエナジーは詐欺罪で代理商社長を刑事告発する方針だという。

 それにしても、8,300万円とは尋常な額じゃない。今年7月に、顧客の一社から「買っていない潤滑油の代金が請求に含まれている」と届けがあり調査したところ、この不正が発覚したというのだが、よくもまあそれだけの大金をごまかせたものだ。現金顧客の伝票を後で取り消し処理し、クレジット顧客に付け替えるという方法で不正請求を続けてきたそうだが、被害は個人が62人、法人が123社に及び、最大で1社約2,100万円分が架空請求されていたという。気づかなかった顧客側にも問題があると言わざるを得ないが、弁済しなければならないJOMOもたまったものではない。金銭的な損失のみならず、長い年月をかけて築いてきたブランドにも、少なからぬ傷を被ることになったのである。

 代理商社長は「給油所の収支が悪く、運用資金に充てた。親族の借金もあった」と話しているということだが、とんでもない話だ。日ごろ、元売に奴隷のように扱われているスタンド経営者に同情の念を抱いている私だが、こんな悪事を働く経営者は断じて許せない。苦しい環境の中、正直に、誠実にスタンド経営に取り組んでいる全国の同業者に汚辱をもたらす行為だ。そして、悲しむべきことは、こうした不届き者のせいで、元売会社から、「やっぱりスタンドの経営者は信用できない」と見なされ、性悪説に基づく与信管理の強化や、配送・集金システムの自動化などが一層進み、最後はスタンド経営者が番犬並みの存在にさせられてしまうことである。

 一方、今回の事件は、元売会社にとっても憂鬱な出来事と言える。どの元売も、系列店に自社クレジットの発券をさかんに勧めている。もし、系列店の多くが、今回の代理商社長のような手口で“広く浅く”架空請求を行なうようなことになったら、それを早い段階で防ぎ得るだろうか。現金伝票を取り消してクレジット請求に付け替えるなど、現場では至極簡単なPOS操作によってできてしまう。毎日、1,000軒のスタンドが1,000円ずつそうした事を行なうとすれば…。クレジットカードの普及を進めれば進めるほど、そうした犯罪に対する対策を強化・徹底してゆかなければならず、当然の事ながら、そのためには巨額のセキュリティコストがかかる。元売にとっては悪夢である。

 だから、というわけではないが、やっぱり従業員が代金決済に介在しないセルフスタンドのほうが安全なのだ。しかも、現金決済が一番。さらにいうなら、管理が簡単で、誤差の出にくいプリカ決済にすることが、こうした犯罪を防ぐのに最も適している。スタンドで勤務する人間がだれであれ、不正をしにくいと感じるような仕組みを整えること─これも、ある意味では従業員や管理者に対して親切な心配りをしていることにならないだろうか。

 人間は弱く愚かな生き物である。生まれながらに持つ良心も、環境や状況次第で麻痺してしまう。先の代理商社長も、不正がいつまで経ってもばれないものだから、ズルズルと続けてしまったのではないだろうか。もし、彼のスタンドが、プリカ方式によるセルフシステムだったら、と考えてしまった次第である。

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