セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.190『価値観の相違』

オピニオン

2008-01-14

 仮にあなたが、窮乏状態の中で正月を迎えることになり、次の三つのうちのどれか一つをあきらめなければ年を越せないという場合、どれを選ぶだろうか。(1) 食費 (2) 光熱費 (3)正月飾りのしめ縄を買ったり、年賀状を送るための費用─。

 私は何の躊躇もせず(3)を選ぶ。確かに、しめ縄を飾らなければ、親戚や近所の人から「変わり者」呼ばわりされるかもしれない。年賀状を出さなければ、友人から「付き合いが悪い」と言われるかもしれない。しかし、人からの評判を気にするあまり(1)や(2)を犠牲にしたために、飢えや寒さで死んでしまったら、元も子もないではないか。

 しかし、世の中には飢えや寒さを我慢してでも、面子や体裁にこだわる人たち、つまり、(3)だけは捨てられないという考えの人が結構いるのだということを、私は仕事を通じて学んだ。先日もこんなことがあった。新年早々、セルフスタンドへの改造の相談に来られたある地方都市のスタンド経営者A氏と打合せのあとで食事を共にした際、彼は次のような心情を吐露した。

 「和田さんが、コラムで書いていることはすごくよくわかるし、共感できるんです。これまでのスタンド経営の感覚を変えないといけない。このままではダメだ。幸いセルフに改造する資金は賄える、よしローコスト・セルフにしよう!と決断する。でも、そのあとから“もしこれをやったら、今までの客に何て言われるだろうか、地元の商工会や同業者からどんな目で見られるだろうか、元売はどういう反応をするだろうか”という不安が襲ってくるんです。つまり、和田さんにとっては一顧だに価しないような事柄が、実は私にとってはセルフ化をきょうまで躊躇してきた最大の問題だったんです」─。

 そしてA氏は、『価値観の相違』という言葉を口にした。冒頭の例えのように、私なら窮するのを待つまでもなく、はじめから“こんなものいらん”と一蹴してしまう類のものが、多くのスタンド経営者にとっては最後の最後まで捨てきれないものであるというわけだ。実際、これまでに、そのような『価値観の相違』を幾度も経験してきた。いざ、工事契約を結ぼうかという段になってから、客の評判が心配だ、仲間の評価が心配だ、元売の反応が心配だということで無期延期、というケースも一件や二件ではない。当社の製品自体の価格や性能に問題があるとの理由ではなかったのが幸いだが、私に言わせれば、飢えや寒さで衰弱している人が、お餅や灯油を買わずに、しめ縄飾りの心配をしたり、年賀状はがきを買おうとするのと同じで、とても理解できない。

 以前は、そうしたことにひどく苛立ったりしたのだが、最近は、冷静に反応できるようになった。人には皆それぞれの価値観がある。もしかしたら、年賀状を送った友人たちが助けてくれるかもしれない。しめ縄飾りが福を呼び“奇跡”が起こるかもしれない。私のように、年が暮れようが明けようが、始終『ローコスト!』と叫び続けているようでは、救われないのかもしれない─などと、柄にもなく反省を口にしたら、件のA氏がこう言って励ましてくれた。

 「いや、和田さんは、今までのように“セルフ原理主義者”であって欲しいんです。私のような者が、迷ったり、ためらったりした時に、あなたのコラムを読むとスッキリするんですから。これからもがんばってください」─。

 “セルフ原理主義者”って、まるでハマスかアルカイダみたいだな。それはともかく、異なる価値観を持っていても、このガソリンスタンド業界で、厳しい飢えと寒さに耐えてゆく立場には違いなかろう。私自身も、引き続き、いろいろな意見に耳を傾けつつ、どうすればセルフ時代を生き延びてゆけるかを考え続けてゆきたいと思う。それにしてもA社長、あの日はずいぶん飲みましたね…。(笑)

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