セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.194『インパール作戦』

GS業界・セルフシステム

2008-02-11

 東京地裁が日本マクドナルドに対して、店長への残業代支払いを命じたことを受けて、早くも大きな動きがあった。セブンーイレブン・ジャパンは今月8日、直営店の店長に3月1日以降、残業代を支払う事を明らかにした。同社は、この制度変更により、「店長によりメリハリをつけて働く意識を持ってもらう。会社側にとっても勤務時間について指導しやすい」としている。

 とはいえ、セブンーイレブンの直営店長はほとんどが入社2年目程度の若手社員で、在任期間も1年程度。つまり、新入社員の実地研修のようなものなのだから、むしろこの期間に、フランチャイズ店の店主さんたちがいかに苦労しているかを理解してもらうためにも、とことんコキ使ってやればいいんじゃないかと思ったりもする。

 石油元売もぜひ、新入社員を子会社のスタンドの店長として1年ほど勤務させてもらいたい。大本営の会議室で、「最適の人数を、最適の時間に配置せよ」とか、「○※▲プログラムを実行して利益指数を改善せよ」なんてほざいている青年将校の諸君に、最前線での厳しい実状をしっかりと味わってもらいたいものだ。

 前回のコラムで書いたとおり、ガソリンスタンドのマネージャーも、その多くが「管理職だから」という理由で、過酷な勤務を強いられている。確かに、ロードサイド・ビジネスである以上、ガソリンスタンドは長時間営業をせざるを得ない。そうであれば、限られた労働力をいかに無理なく、無駄なく配置できるか─。

 これまで人手をかけて行なっていた数々の作業を思い切ってカットし、少数のスタッフでも安全にスタンド営業を行なえるセルフシステムは、有効な解決策となるはずだった。しかし、実際にはセルフスタンドは激しい安売り競争を誘発し今日に至っている。量販をもくろんで航空母艦のような大型セルフスタンドを作ったのは良いが、計画通りの数量がはけず、重たい販管コストに苦しむ店も少なくない。本来なら、数量を減らしてでも燃料油利益を上げたいところだが、依然として量販志向が根強いこの業界では、それもままならない。そこで生まれたのが「日本型セルフ」である。

 燃料は相変わらず薄利多売せねばならぬ。それでは赤字だというなら、油外収益で賄えば良い。オイル、タイヤ、洗車、車検整備、板金塗装…。それらを人件費の安いパートタイマーを使って稼げと言われたって、結局、指揮官であるマネージャーが、早朝から夜更けまで身を粉にして働かなければ目標達成はかなわない。彼らはあくまで“管理職”なので、長時間勤務の改善を訴えても、「ローテーション管理が下手だ」「人材育成能力がない」と責任追及されるのがオチなので、ついつい一人でがんばってしまうという訳だ。

 昨年、ある元売子会社のスタンド店長が、長時間労働の末、くも膜下出血で倒れ、一命は取り留めたものの重い身体障害が残ったとして、労働基準監督署から過労労災の認定を受けるという出来事も報じられた。採算を度外視して安売りした挙句、その穴埋めを油外収益で補うという「日本型セルフ」スタンドの多くは、献身的な管理職が健康や家庭を犠牲にしながら運営されているいうことを、業界全体で真剣に考え、何らかの改善策を打たねばならないのではないか。

 太平洋戦争末期、戦局打開を狙った日本軍は、ビルマーインド間のイギリス軍の要衝を攻略するため、標高2,000㍍級の山々が連なるジャングルを長距離進軍した。大本営は兵站を軽視し、行軍中の食料は、装備を運ぶ牛馬やジャングルの草木を食べて賄えば良いという冗談みたいな指示のもとこの作戦を敢行した結果、投入兵力8万6千人のうち、7万2千人の戦死者(そのうち4万人が餓死・傷病者)を出すという悲惨な敗北に終わった。いまの「日本型セルフ」の戦略は、この戦史に残るバカ作戦として名高い「インパール作戦」に似ていると言ったら言い過ぎか─。

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