セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.197『あるスタンド経営者のこと』

GS業界・セルフシステム

2008-03-03

 今回は、私の大切なお客様の一人である、名古屋市内にあるT石油の社長Tさんのことを書きたいと思う。Tさんが私のスタンドに来られたのは、いまから3年ほど前のことだった。当社のセルフシステムに関心があるとのことだったのだが、長年掛売り客を相手に家族経営でやってこられた三社販売店の店主さんということで、なかなかセルフ化には踏み切れないだろうと私は決め付けてしまった。それまでにも、幾人もの似たようなスタンド経営者がやってきては、恐れをなして帰って行かれたので、私の中にそのような先入観があったのである。ところが、あとで聞いた話では、Tさんはこの時、「ああ、こんな簡単な仕組みでセルフができるならやろう」と決意し、セルフ化に向けてまい進して行ったのだった。

 それまでは、元売りの支店長に「こんな所にウチの販売店があったとは知らなかった」と言われてしまうほど存在感が薄かったT石油だが、24時間セルフ店として順調に売上を伸ばし、いまでは複数の商社が競って油の売り込みに来るほどのお店になっている。とはいえ、T石油は現金量販一本やりのセルフスタンドと言うわけではない。セルフ化に当たってTさんは、それまで永年お世話になってきた掛売りの得意先をていねいに一軒一軒まわり、セルフ給油への理解を求めた。自分で給油してもらう分、価格は安くなること、支払い方法も融通を利かせることなどを説明し、客のセルフに対するアレルギー反応をやわらげることに心を砕いた。その結果、大半の掛売り客がそのまま残ったうえに、周辺のスタンドの閉鎖やセルフ化に伴って“難民”となった掛売り客が、一軒、また一軒と取り引きを申し込んで来るという現象まで生じた。

 「セルフにしたのに掛売りの客が増えちゃうなんて変だよねー」とTさんは笑っているが、郊外の大型店舗と異なり、限られたエリアの中で生き抜くためには、掛売り客であっても無下にするのではなく、コストがかからない範囲内で巧みに取り組んでゆくべきであろう。また、本人曰く、「小遣い稼ぎ」と称している油外収益も、こちらから勧めることは一切せず、頼まれたら応じるというスタイルで稼いでいる。「きょうはオイル交換が3台もあったうえに、ワックス掛けまで入っちゃって忙しいんだよ」とぼやくので、「油外収益が稼げるのに文句言ってるようなスタンド経営者はTさんぐらいのものだよ」と私がからかうと、「スンマセン」といたずらっぽく笑っている。

 戦国の世を生き抜いた伊達政宗は、「仁に過ぐれば弱くなる。義に過ぐれば硬くなる。礼に過ぐればへつらいとなる。智に過ぐれば嘘をつく。信に過ぐれば損をする」との言葉を残した。これをガソリンスタンドのセルフ化に当てはめるなら、それまでの客(特に掛売り客)への恐れから過度に譲歩するなら、セルフ化した効果が弱まってしまう。たまに見かける「スプリット・セルフ」などはその典型例である。また、フィールドに常に2~3人のスタッフを配置し、誘導や案内をするのは「へつらい」でしかない。相手かまわず、頼まれれば無条件で掛売りに応じるようなお人好しでは「損をする」ことにもなろう。

 しかし一方で、あまりにセルフの原理原則にこだわり、柔軟性を欠けば(私はその傾向にあるのだが)、失わなくても済む客を失う恐れがある。また、あらゆる客層を取り込もうと欲をかき、三重、四重の価格体系を表示するなら、まさに「智に過ぐれば嘘をつく」。クレジットカードの決済時に値引きするとか、釣り銭分をリライトかーどにポイントにして書き込むなどといった手の込んだ仕掛けもまた然りである。

 Tさんは、伊達政宗の説いた「中庸の精神」をセルフスタンド経営に反映させている、実に賢い経営者だと私は思う。いつ会っても明るく柔和な人なのだが、実は剣道の有段者でもあり、筋トレを欠かさないマッチョマンでもある。その経営スタイルも、派手さはないが、無駄もなく、常に“中段の構え”を崩さないのである。

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