セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.206『祭りのあと』

GS業界・セルフシステム

2008-05-05

 一ヶ月に渡り全国で開催された「暫定税率フェア」もようやく終わった。30日には、開業以来最高の販売量を記録したというスタンドも少なくなかったようだ。みなさん、お疲れ様でした。テレビで、「政治に振り回された」とか何とか文句を言っているスタンド経営者もいたが、客が押し寄せてくる光景を目の当たりにするのは、決して悪い気分ではなかったはずだ。需要が減衰傾向に入り、貧血気味だったスタンド業界にとって、久々にテンションの上がる数日間となったはずだ。

 「セルフスタンド日進東」も、深夜までにぎわった。テレビで報道されるような、何百メートルも行列ができたり、ガソリンが売り切れて閉店するようなすさまじいことにはならなかったが、日進市のはずれの、小さくて、ボロくて、周辺の店よりもやや高値の私の店に、大勢のお客さんが来てくれたことは、喜びでもあり、励ましともなった。

 しかし、中には困った客もいた。ポリ容器を3個も積んできて、ガソリンを“備蓄”しようとした男性客にスタッフのYが注意すると、「何だとコノヤロウ、お前たちがあしたから値上げするのが悪いんじゃネェか!」と逆ギレした。

 (値上げはおれのせいじゃねぇぞ…)と思いながらも、とにかくガソリンをポリ容器に保存することは消防法で禁じられているので販売できないと説明すると、オヤジはますます興奮し、「テメェ、殺すぞ!」とわめき出したので、Yは「ヨシ、いまから消防と警察両方呼んでやるから待ってろ!」とどやしつけた。するとオヤジは、まわりで給油中の客に向かって「おい、お前ら、こんなスタンドで給油するんじゃねぇ!」などと吼えながら、出て行ってしまった。それを見ていた客たちはYに、「大変だねぇ、ご苦労様」とか「アイツ頭がおかしいんだよ、気にしなさんな」などと声をかけてくれたそうである。

 トラブルといえるようなものはその一件だけで、あとはもう粛々と客が給油してゆくのを、モニター画面を通じて見守るだけだった。下手に交通整理なんかしようとして出てゆくと、福田総理に代わって国民の文句を聞く破目になるので、じっと引きこもっているに限る。不思議なもので、普段の数倍の客が来店したにもかかわらず、客から呼ばれることは通常よりも少ないぐらいだった。うしろで客が待っていると、つまらないことで店員を呼んだりするのがはばかられるのか、サクサクと給油して、スイスイと出てゆく。やっぱセルフは楽でエエ。

 「ガソリンが入らないんだけど」と呼ばれた時は、“すわ故障か”と思ったが、駆けつけると、「ほら、何べん入れても止まっちゃうんだよ、ほら、ネ」と言いながら、ノズルの引き金を何度も引いている。「お客さん、もう満タンですよ、口元まで油が入っているじゃないですか」「あ、そうか。4リットルしか入らんかった、ごめんごめん」─。

 そんなこんなで日付も変わったころ、客足も衰えてきたので、価格看板をかけ替えて、暫定税率を“復活”させた。今月12日には、この暫定税率をあと10年間延長させる法案が衆議院で可決される見通しである。10年後には、せっかく作った道路を走る肝心の車がなくなっているなんてことになったりして。そうなれば、当然我々の多くもこの稼業から足を洗っているということになる。

 “祭りのあと”の5月1日は、まさにそんな近未来を疑似体験したかのような一日だった。このまま永久に客が来ないんじゃないかと思えるほどの静寂。前日の高揚感はまたたく間に覚め、ひたひたと恐怖が忍び寄ってくる。楽しいことのあとには、その何倍もの苦しみが待ち受けているということか。史上最高値となったガソリン。客はまた、わたしたちの元へ戻ってきてくれるのだろうか。

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