セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.213『異業種スタンドはなぜ増えないのか』

GS業界・セルフシステム

2008-06-23

 この間テレビのニュース番組を見ていたら、「トヨタカローラ横浜」が店舗敷地内で運営するセルフスタンドのことが報じられていた。計量機は1基だけの会員制ポンプスタンドで、価格は地域最安値の160円。マネージャーは「お客様に新車を買っていただくきっかけ作りができさえすれば良いので、採算はあまり考えていない」とのことだった。実際、給油に来た客にマイクを向けると、「ショールームに並んでいる新車がついつい目に入るので、買い換える気がないのにカタログなんかをもらってきてしまう」と答えていた。

 ガソリンを「集客」のためのアイテムとして用いるこうした動きは、今後も、様々な業種で試みられることだろう。しかし、特石法撤廃時に恐れられていたほどのことはなさそうだと私は感じている。いまから10年近くも前の話だが、愛知県に本社を置くシネマコンプレックスが、駐車場拡充のために隣地の閉鎖されたガソリンスタンドを買い取った。しかし、すぐには壊さず、そのスタンドの経営に乗り出すことになった。狙いはもちろん「集客」のためである。

 地域最安値の価格を掲出したところ、以前の経営者が運営していた頃の5倍以上の販売量をまたたく間に達成した。来店客にはスタンプカードを配布し、スタンプが5個たまると映画の鑑賞券がもらえる。そんなに気前良くタダ券を挙げちゃっていいんですか、と経営幹部に問うてみた。「和田さん、映画館は満員でもガラガラでも、コストはほとんど変わらないんですよ。それなら、タダでもいいから客を一人でも多く入れたほうが、コーラやポップコーンなどを買ってくれる分だけもうかるというわけです。ガソリンスタンドはそのための“エサ”をまく装置に過ぎないんです」─。

 それにしても、カーディーラーやホームセンターなど、自動車や生活消費財などと、ガソリンや灯油の結びつきは容易に想像できるが、映画館が集客のためにスタンド経営をするというのは想定外の組み合わせであった。しかも「もうからなくてもいい。客さえ集まればいい」という発想でガソリンを売られた日には、周囲のスタンドはたまったものではない。周囲のスタンドは、このシネコンのスタンドがセルフ化し、24時間ガソリンを売りまくる日は近いと恐れおののいていた。

 私は、このシネコンに、解禁間もないセルフシステムを導入し、効率よくガソリンを販売してはどうかと提案した。初期の成功に気を良くしていたシネコン経営幹部は、この提案に興味を示し、東海地方に展開する店舗に、順次セルフスタンドを併設する計画を立て、私もいろいろとお手伝いをさせてもらったのだが、結局この計画は成就しなかった。

 初めのうちは、純粋に集客することだけを考えていたシネコン幹部だったが、仕入先の元売からガソリンスタンド業界の“常識”を教わるにつれ、スタッフ教育を強化しなければいかんとか、市況是正に協力しなければならんなどと言い出し、“普通のスタンド”路線に軌道修正してしまった。そうこうしているうちに、周囲のスタンドのほうが先にセルフ化を進め、その結果、スタンドの販売量は減りはじめ、スタンド経営への熱も急速に冷めてしまったのである。

 ほかにも異業種によるスタンド経営の計画に幾つか関わらせてもらったが、実現への道のりは思いのほか厳しい。その要因はおもにスタンド経営に対する無知と無理解によるものだ。あまりにも難しい事を考え過ぎたり、余計な事を心配し過ぎたりして頓挫してしまうのである。そのうえ、昨今は、ガソリンスタンドが一段ともうからなくなってきている。実際、専業スタンド業者が「もうからなくてもいい。客さえ集まればいい」と言わんばかりの商売をしているのだから。それにしても、異業種が新規参入したくなくなる業種って一体…。

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