セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.215『ブランド』

GS業界・セルフシステム

2008-07-07

 暫定税率復活前日の4月30日、全国のガソリンスタンドは駆け込み給油の客で長蛇の列を作った。そんな中、ある外資系元売のマークを掲げるスタンドが、地元テレビ局の取材を受けていた。店長はカメラの前で「いや~そろそろガス欠しそうなんですよ…早くローリー来ないかなぁ」とやきもき。そこへ“無印”のタンクローリーがやってきた。「あっ、来た来た、よかった~間に合いました!」─。

 テレビを見ていた一般の視聴者には何という事のないこの場面。しかし、堂々と業転ガソリンを仕入れているところをテレビで見せ付けられた系列元売は激怒、そのスタンド経営者を呼びつけたとの事である。具体的にどんな事を申し渡したのかは不明だが、面子を潰された元売の苦々しい心中は察するに余りある。

 はなし変わって後を絶たない食品の産地偽装犯罪。今回は飛騨牛、一色うなぎと、いずれも東海地方の誇るブランドに傷が付いてしまった。しかし私は断言する。人間が貪欲である限りこうした詐欺行為はこれからも続くだろう。消費者である私達は、何事も疑ってかからねばならない時代になったのだと思う。

 元売マークを掲げながら業転ガソリンを販売するのは一種の偽装行為ではないかとの意見があるようだ。確かに一般の消費者は、エッソのスタンドではエッソのガソリン、出光のスタンドでは出光のガソリンが売られていると思うだろう。しかし、元売は同じ油槽所でそれぞれのマークのローリーに油を詰め込んで出荷している訳で、ガソリンに関して言えば「ブランド」などと言うものは存在しない。それに、業転と称される代物も、元を辿ればすべてどこかの元売から出ているものなのだから“無印良品”と呼ぶべきものなのだ。

 そのうえ、当の元売も系列店が少なからず業転ガソリンを仕入れている事を暗黙のうちに認めている。「せめて、毎月ウチのクレジットで販売された分だけは買ってくださいよ」などと系列店にお願いしている元売もあり、「ブランド」の誇りなど微塵もない。それどころか、浮気することなく元売から全量仕入れていることを誇りにしている特約店主の事を、「ウザイ」と言い放つのを直接耳にしたこともある。それゆえ、冒頭のスタンドのように、調子こいてマスコミの前で白昼堂々と業転仕入をするようなことでもしない限り、元売も系列店が業転を購入するのは、ジェネリック医薬品を買うのと同じように、仕方のない行為として、見て見ぬ振りをしているケースが多いようだ。

 したがって、マークを掲げながら業転ガソリンを販売するスタンドを偽装行為として非難するというのは、石油業界の仕組みがわかっていない人たちの誤解に過ぎない。それどころか、「白猫も黒猫も、鼠を獲る猫は良い猫だ」という鄧小平の言葉に倣い、「マークがあろうがなかろうが、油をたくさん買ってくれるスタンドは良いスタンドだ」とばかりに、元売自身が「ブランド」という制約を取っ払おうとしているようにさえ感じるきょうこのごろである。実際のところ、「アナタ一筋」とついてくる特約店は、今後はむしろうっとうしい存在なのかもしれない。

 時代だからこそ、系列に属するガソリンスタンドは、元売からいつかは見捨てられるということを想定した備えをしておくべきだと思う。そのための要諦は、セルフ化によってローコスト化をはかりつつ、現金収入を増やすことである。結局最後にモノを言うのは現金を持っているか否かなのだという事は、これまでに元売に見放され廃業や倒産に追い込まれたガソリンスタンドの例から見ても明らかなことだ。“右肩下がり”の需要局面を迎えているいまこそ、一度「ブランド」へのこだわりを捨てて、自分の店のアイデンティティを見つめ直すべきなのではないかと思う。

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