和田 信治
GS業界・セルフシステム
2008-07-28
新日本石油は8月のガソリンの卸価格を、前月に比べ1リットルあたり6円引き上げると発表したが、出光興産は逆に3.2円引き下げる。ただし、同社が7月後半に打ち出した4.4円の卸価格値上げは店頭価格に浸透しなかったため、実質的には1.2円の値上げになるとのことだ。いずれにしても、業界の大手二社が、値上げと値下げという完全に逆方向の価格改定を行なうというのは興味深い現象だ。
ところでこの二社は、10月から「新価格体系」を導入するという。内容に多少の差異はあるものの、基本的には両社とも、市場連動により卸価格の改定を一週間ごとに行なうというものだ。すでにエクソン・モービルが実施しているシステムであり、珍しくも何ともないのだが、問題は、両社の系列特約店がこのシステムに順応できるかどうかだ。
「卸価格が月1~2回だったものが、毎週改定になるだけのことで、それほど大げさに考えることないんじゃないか」と考える特約店もあるかもしれないが、“エクソンの政策が時間を経て業界スタンダードになる”という私の持論どおりとなれば、この週決め方式導入後、それほど遠くない将来、事後調整はなくなり、サブ店卸特価も廃止されることだろう。そして、支払いサイトは段階的に短縮され、最終的にキャッシュ・オン・デリバリー(COD)となる…。
エクソン系列店と比べて総じて合理化・現金化が遅れている民族系元売系列店が、これから先予想されるこれらの変化に対応できるかどうか。しかも、原油価格の乱高下に翻弄され、需要減退がとどまる気配のない今日の環境下で、周回遅れの元売は、予想より早いスピードで“エクソン方式”の導入を進むるかもしれない。
─とまあ、これらはすべて私の推測である。予言といっても良い。信じられない方、信じたくない方は無視していただいて全然結構である。かつて、楽天イーグルスの野村監督は「キャッチャーというポジションは、いつも最悪のケースを想定していなければならない。ピッチャーが失投したらどうしよう、野手がエラーをしたらどうしよう、ランナーが走ったらどうしよう…そういうことばかり考えているから、ネクラで用心深くなる。でも、それが監督としての私の基礎を築いてくれたのだ」と語ったことがある。
今日のガソリンスタンド経営者も、「最悪のケース」を想定して備えをしておくべきではないだろうか。そのためになすべきことはローコスト化の推進だ。自分の店を隅々までつぶさに観察し、ムダを徹底的に取り除く。給料に見合う仕事をしていない従業員(大抵は管理職)はいないか、収益性の低い設備や機器類はないか、回転率の悪い在庫品がたまっていないかなど、聖域(例えば会長様の給料など)を設けず改善する必要がある。掛売り客があるならしっかりと選別し、小口客は可能な限り現金化する。大口客についても、明確な支払いルールに従って取引してもらうことをためらってはならない。
こうした合理化を進めてゆくと、最終的にはセルフ化ということになるのだが、それはつまり現金化を進めてゆくために最も有効な手段なのである。特約店であろうとサブ店であろうと、スーパーディーラーであろうとリテーラーであろうと、これから先モノを言うのは現金だ。元売の価格政策がどれだけドラスチックになろうとも、即金で商品代を支払う力を持っている限り商売は続けられる。逆に言えば、優秀な人材や優良な顧客を持っていても、現金を持っていないならだれからも相手にされなくなるだろう。何とも殺伐とした話だが、希望的観測に頼って備えを怠っていると、「最悪のケース」が生じたときにはもはや手遅れということになる。ローコスト経営へのシフトチェンジは、いまや喫緊の課題であると“警告”しておく。ちなみに、野村監督の最も嫌う思考パターンは「何とかなるさ」なのだそうだ。
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