セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.229『倒産』

GS業界・セルフシステム

2008-10-13

 青森県で24ヶ所のガソリンスタンドを運営する柿本石油という会社が、今月5日に事業を停止し、自己破産申請をした。負債は約70億円。積極的な出店と極端な安売りで青森県ではつとに知られた会社だったらしい。「らしい」と書いたが、実は私は、柿本石油という会社の存在ついて今回の事件ではじめて知った有様で、東北地方の新聞やテレビの報道をインターネットでいろいろと調べてみた。一応JOMO系列のスタンドを数軒運営しているが、昨年一年間で7店もの新規出店を果たし、そのすべてがPBセルフとのことである。

 普通、ガソリンスタンドの経営破綻など大したニュースにもならないのだが、今回は青森県最大手の業者ということだけでなく、灯油前売り券やガソリンのプリペイドカードを全店で相当額販売しておきながら何の告知もなく5日にいきなり休業、その直後から社長と連絡が取れなくなったこともあり大騒ぎになったというわけだ。

 結局、社長の柿本和夫氏は10日に青森県庁で謝罪会見を行なった。その一部始終を『東奥日報』という地元新聞のウェブサイトの動画ニュースで見ることができた。これまで、いろいろな経営者の謝罪会見を見てきたが、ガソリンスタンド経営者のそれは初めてだった。冒頭、お決まりの謝罪の言葉のあと、報道陣から厳しい質問が次々に浴びせられた。会社倒産に至った柿本社長の説明は、大雑把に言えば、日々の売上金を前払い(COD)による業転玉の購入に充て、9月末までに取引銀行団による協調融資(シンジケートローン)を受けた暁に、支払いが遅延しているJOMOの買掛金を精算しようとしたが、銀行側が約束どおりに融資しなかったうえ、「58年の長きに渡る取り引きに免じて」支払いを猶予してもらえないかとJOMOに再三頼んだが、「約定通りに支払ってくださいの一点張り」で応じてもらえず、資金繰りが滞り万事窮した、ということだった。

 要は約束を守らなかった銀行と、非道な仕打ちをした元売のせいで潰れてしまったという“恨み節”とも取れるような内容だったが、『東奥日報』は、ワンマン経営者による採算度外視の拡大路線と多角化による当然の末路だと手厳しく論評している。今後は、多い人で30万円も購入したという前売り券・プリカの返金問題が最大の関心時となるだろうが、NOVAやゲートウェイ同様、消費者救済は厳しいとの見方が支配的だ。

 今回の事件でまず考えさせられたのは、プリペイドカードというものは、販売した時点ではあくまで顧客からの「預り金」であるという当たり前の事を念頭において経営しなければならないということだ。私は以前から、プリカというのは代金決済のコストを抑えるためのツールに過ぎないと唱えてきた。事実、ガソリンスタンドにおける3~5千円程度の券種のプリカ販売では、滞蔵金は悲しいぐらい残らないのである。

 一方、柿本石油のようにプリカを顧客囲い込みのツールとして過度に利用することは慎むべきものと考える。プリカの券種はせいぜい二万円まで。プレミアムはせいぜい2円程度とし、必要以上に発券しないよう調整すべきだ。高額プリカを、度を越した値引きや景品などを付けたりしてまとめ買いをさせようというキャンペーンを張るような店は、十中八九資金繰りに窮していると見て良い。国家で言えば、赤字国債を増発している状況に似ている。繰り返し書くがプリカはあくまで代金決済簡素化のツールに過ぎないのだ。

 柿本石油の倒産を、滅茶苦茶な安売りをしたツケがまわってつぶれたと片付けるのは簡単だ。しかし同社の猛スピードの拡大が、銀行や元売の何の後押しも後ろ盾もなく進められてきたとは思えない。勝手な推測だが、柿本社長はいまごろ、「あの時銀行はああ言っていたのに。元売はこの間まではこう言っていたのに…」と悔しい気持ちで一杯なのではないだろうか。しかし、仮にそうだとしても、銀行や元売の言葉を信じた経営者が甘かったと言わざるを得ない。『晴れの日に傘を貸し、雨の日に傘を取り上げる』─銀行も元売も、所詮はそんなものなのだ。全国のガソリンスタンド経営者にとって今回の事件は貴重な教訓を与えるものだと思う。

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