セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.234『トヨタ・ショック』

政治・経済

2008-11-17

 愛知県・豊橋市の幹線道路沿いに、カーショップとドラッグストアの大型店舗、マンガ喫茶、ラーメン店などを有し、150台を越える駐車スペースも完備した4,000坪ほどの商業用地があるのだが、その真ん中に80坪ほどのセルフスタンドがある。一時期休眠していた施設を、2年前にリニューアルオープンさせたが、当初は目標の月間販売量になかなか届かなかった。しかし、商圏最安値の価格掲示を辛抱強く続けた結果、暫定税率騒動の頃から急速にボリュームが上がりだし、いまでは目標を大幅に上回るようになった。

 とにかく中古の計量機2基のみの施設で、決済方法は千円から一万円までのプリカのみ。券種による値引きもなければ、ポイントサービスや会員特典もない。営業時間は午前8時から午後10時まで。ひっきりなしに車が入り、さっさと給油して、さっさと出て行く。あまりの盛況に日経新聞が取材に来て記事になった。2年前にプロデュースした当初から、そこそこの量で採算ラインに乗るだろうと見込んでいたが、これほどまでに売れるとは。PBのため、仕入れは全量業転ガソリン。そのうえ徹底的なローコスト経営。少々安く売っても真っ黒けのはずだ。

 「すごいですね」とマネージャーに話しかけると、彼は「これから先が心配です」という言葉が返ってきた。米国発の金融危機に伴う世界的な自動車販売不振のため、トヨタをはじめとする自動車メーカーは、来年から軒並み大幅減産を実施する。日本有数の自動車の生産・輸出基地である、豊橋市やとなりの田原市の人々の生活に、甚大な影響が及ぶことは必至だ。とりわけ豊橋市には、人口の3㌫を占める約1万3千人のブラジル人をはじめとする大勢の外国人労働者の家族が暮らしている。「トヨタが大幅減産を行なえば、そうした外国人労働者が真っ先に切られるでしょうし、多くの派遣社員も仕事を失うでしょう。正社員の人たちの暮らし向きも厳しくなることは間違いない。そうなると、この地域では少々価格を下げたぐらいではガソリンは売れないでしょうね」─。

 もっともな心配である。ガソリンスタンドに限らず、東海地区のありとあらゆる業種が、今後相当厳しい経済状況に置かれることを覚悟しなければなるまい。何せ、トヨタがくしゃみどころかインフルエンザにかかったような状況となってしまったのだ。ついこの間まで元気だ、好調だともてはやされてきた東海地方だが、わずか数週間で奈落の底に落とされたような有様だ。豊田市に隣接する我が日進市も、その影響はモロにかぶることになりそうだ。

 トヨタの国内最大の生産拠点は田原工場だが、来年1月から三つある生産ラインのうちの一つを昼夜2交代制から昼勤務だけにするという。そのラインで作っている車種は、あの「レクサス」だ。日米欧市場でのレクサスの販売台数は前年を大きく下回っており、今後一層減販すると見られていることから、今回の異例の減産に踏み切ったとのことだ。

 ご存知のとおり、レクサスは他のトヨタ車とは切り離され、専門店で販売されている。高級ホテルのロビーのような豪華なショールームで、ユーザーを招待してのパーティやコンサートなどが催されるなど、ブランド志向を強く打ち出したバブリーな販売戦略が展開されてきた。店長クラスはリッツ・カールトンホテルでの研修・訓練を受け、同ホテルのホスピタリティをお手本にしているのだとか。リッツ・カールトンの経営理念は、「顧客満足を越えて、感動を提供する」との事らしい。どこぞの業界もこうしたフレーズが大好きなのだが、今回の経済危機の前には、高尚な理念もあっけなく吹き飛んでしまったようだ。

 汗水流して働き続けても、一生レクサスに乗ることなどできない人たちがますます増えようかというご時世に、あるいはまた、きのうまでレクサスを乗り回していた人が、中古車すら買えなくなってしまうような危機のさなかに、もはや、自動車に“感動”などというオプションを求める余裕など人々にはない。もちろん、ガソリンスタンドにもそんなものは求められてはいない。

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