セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.240『リアリストたれ』

オピニオン

2009-01-05

 千葉県の銚子電鉄は駅名の「銚子」を「調子」になぞらえた「合格祈願切符」という乗車券セットを5年前から販売している。「のぼり銚子行き」(上り調子になる)、「本銚子行き」(本調子になる)、「往復銚子行き」(調子が悪くても本調子に戻る)の3枚組のセットで、発売当初は地元高校生が購入する程度だったが、口コミで反響が広がり、いまでは全国の受験生やその親・関係者などからの購入申し込みが引きも切らないという。

 また、創業以来幾多の経営危機を乗り越えてきた銚子電鉄にあやかりたいとの思いからか、一度に100枚以上購入した大手企業もあったという。米国発の金融危機と世界同時不況の大津波に見舞われ、わらにもすがりたい経営者の心境がうかがわれる話である。もちろん、そんなものを何百枚購入したところで、会社の業績が上向くはずもない。まあ、そんなダジャレのような切符を買うだけの余裕がまだあるということか。

 おせち料理は、ゲン担ぎが満載で、まめ(健康)に暮らせるようにと黒豆。子孫繁栄を願う数の子。昆布巻きは「喜ぶ」にかけてお祝いの食卓には欠かせない一品。そして栗きんとん。きんとんは「金団」と書き、金銀・財宝を意味していて、豊かな生活が送れるようにとの願いが込められているのだとか。書いている先からばかばかしくなってくるような話なのだが、この不景気のさなかでも1セット5万円から8万円もする高級おせち料理のセットが、発売と同時に売り切れになったというニュースを見ると、大真面目で“おせちパワー”にあやかろうとしている人たちが案外大勢いるのかもしれない。

 このあいだテレビを見ていたら、あるコメンテーターが『景気の“気”は気分の“気”でもありますから、あまり「危機だ、危機だ」と騒がないで、明るく前向きな姿勢を保つことが大切ですね』と能天気なコメントを述べていたのにはあきれてしまった。売上が9割もダウンしてしまった町工場の経営者や、突然解雇され路上に放り出された人々に「景気の“気”は…」なんて言ったら蹴っ飛ばされちまうだろう。

 結局のところ、かつて人類が経験したことのない危機的時代の中では、縁起を担いでみたり、根拠のない楽観論を唱えるしかないのだろうか。いや、こういう時こそ、冷静に状況分析をし、できることをひとつひとつ確実に行なってゆくべきだ。ガソリンスタンド経営においては、現金化とセルフ化は待ったなしの課題といえる。昨年10月から新日石・出光が価格改定を週決めとした。エクソン・モービルは今年から日決めに改定するという。もはや、現金でリアルタイムに仕入れることができなければ、激化する価格競争に敗れ去ることになる。油外収益に関しても、掛売り客への車検セールスよりも、現金客へのオイル販売の方に努力を傾けるべきだろう。

 セルフ化に関しては、これまで幾度となく主張してきたように、増販を前提とした量販型セルフではなく、減販しても耐えうるだけのローコスト・セルフへのリニューアルをいまのうちに進めるべきである。繰り返しになるが、セルフ化するか否かを論ずる時期はすでに過ぎており、どのようなセルフスタンドとするかを決断しなければならない時期に来ているのだ。

 ある大学教授は、今日の状況に対して『リアリストとして臨むべきだ』と語ったが、同感だ。「商いは飽きない」とか、「商売は笑売」などという、ごろが良く耳に心地良いだけの抽象的な言葉に惑わされてはならない。手持ちの現金をいかに増やしてゆくか、毎月のコストをいかに切り詰めてゆくかを、あすから具体的かつ着実に実現してゆくしかない。現実と向き合うことがどうしてもいやだという人は、「のぼり銚子行き」の切符でも買いに行ってください。

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