セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.241『マキャヴェリズム』

オピニオン

2009-01-12

 「戦争を始めるのは簡単である。しかし、それをやめるのは至難である」─14世紀のイタリアの政治思想家マキャヴェリのことばだ。日本も先の大戦において、大きな犠牲を払ってこのことばの真実性を学んだ。イラクやアフガンに侵攻した米軍も、“聖地”をめぐって争っているユダヤ人とアラブ人たちも、このことばをかみ締めているに違いない。

 戦争は人類史における最も野蛮でおぞましい行為だが、ビジネスはしばしば戦争に例えられてきた。経営者の中には戦記物を愛読する人が多いと聞く。実際の戦争とは異なり、流血に至ることはないにせよ、「始めるのは簡単だが、やめるのは至難」という点では同じだ。特に、ガソリンスタンド戦争においては─。

 価格以外に顧客にアピールするものがない我が業界では、果てしない消耗戦が全国津々浦々で繰り広げられている。とりわけ、昨年秋以降、原油価格の急落と呼応するように、新日石・出光が仕切り改定を週決めとした結果、市況はものすごいスピードで下がり、今月5日時点では、全国のレギュラーガソリン価格は4年7ヶ月振りに110円割れとなった。(石油情報センター調べ)

 日進市では、昨年12月初旬にすでに110円割れを起こし、いまでは90円台前半が“相場”となっている。「エーッ、そんな価格で利益が取れるの!?」と問われれば、「いいえ」と答えるしかない。「じゃあ、何でそんな価格で売っているの?」との問いには「戦争だから」としか答えようがない。例えば、先月中旬、日進市内のJOMO系のセルフスタンドが、リニューアルオープンでレギュラーガソリンを87円で販売した。期間限定とはいえ、消費税を除くと約83円。タンクローリーをチャーターして仕入れに行こうかと思ったほどだ。

 「目的のためには手段を選ばない」という考えの持ち主の事を、冒頭のマキャヴェリの思想に由来して“マキャヴェリスト”と呼ぶが、この業界には「ガソリンをたくさん売るためなら赤字になっても構わない」というマキャヴェリストがたくさんいるようだ。いや、マキャヴェリストは「権謀術数主義者」とも訳出されるので、もうちょっと知恵の働く人のことを指すのだろう。87円でガソリンを売るような輩は、さしずめ「健康のためなら死んでもイイ!」とギャグを飛ばす「なかやまきんに君」と同じ程度の思考力なのかもしれない。

 とにかく、我々はだれもやめさせることのできないこの戦争といかに付き合ってゆくか、あるいは、戦線離脱するべきかを真剣に考え続けていなければならない。相変わらず「今年こそ量から質へ」と他力本願の理想論をぶっている人には、「自らの安全を自らの力によって守る意志を持たない場合、いかなる国家といえども、独立と平和を期待することはできない。なぜなら、自らを守るという力量によらずに、運にのみ頼るということになるからである」というマキャヴェリのことばを捧げたい。

 マキャヴェリはまた「国家が秩序を保ち、国民一人一人が幸福を享受するには、清貧が最も有効だ」とも述べている。私なりに勝手な解釈をさせていただければ、果てしなく続く消耗戦のなかで、「会社」という国家が存続してゆくためには「清貧」、すなわちローコスト経営に徹することこそが最上の策ということになるまいか。

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