セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.243『跡継ぎ選び』

政治・経済

2009-01-26

 今月20日、トヨタ自動車は新社長に豊田章男副社長(52)を昇格させる人事を内定、名古屋市で記者会見が行なわれた。いまや世界最大の自動車メーカーとなったトヨタのトップ人事、それも類例のない経済危機のさなかに創業者の孫にあたる“プリンス”が登板するということで、日本の総理大臣が交代するよりも世界の耳目を集める出来事のはずだったが、その日はあのバラク・オバマ合衆国大統領の就任式典の日でもあったため、ニュースのトップラインを飾ることにはならなかった。

 これは私の憶測に過ぎないのだが、あえてトヨタはあの日を選んで記者会見を行なったのではないだろうか。創業家一族を“錦の御旗”に立ててトヨタがこれから行なおうとしていることは、世界規模の大リストラだ。従業員にも仕入先にも販売店にも多大の痛みをこらえてもらう必要がある。新社長就任で過大な期待をかけられてはやりにくい。そこで耳ざわりの良い言葉はオバマ大統領に任せておき、なるべく人目に触れないように発表会見を済ませ、6月発足の新体制の準備を着々と進める─なかなか賢いやり方だなと思うのだがうがち過ぎか。

 トヨタほどの巨大企業が世襲というのは多少違和感があるが、中小・零細企業では跡継ぎは創業家の嫡出子か女婿と相場が決まっている。ガソリンスタンドの経営者も、大半が2世、3世の経営者たちで占められている。“厳しい経営環境を若い感覚と果敢な行動力で乗り越えてほしい”との期待が若き経営者の肩に重くのしかかる─と言いたいところだが、実のところ新社長の肩にのしかかってくるのは、前経営者から引き継いだ様々な“負の遺産”だ。前経営者がそれまでに築いた伝統や慣習がしばしば改革の阻害要因となり、新社長を苦しめると言うわけだ。

 とりわけ、セルフ化に伴なう様々な経営改革は、前経営者や古参従業員などからの強い抵抗に遭うことが少なくない。彼らからみれば、新社長はついこのあいだまでランドセルを背負っていた子どもに見えるかもしれない。その子が、いつの間にか成長し、これまで自分たちがやってきた方法とはがらりと違うことをやろうとすると戸惑いや恐怖すら覚えるのだ。こうして多くのセルフ化計画が潰されてきたと私は考えている。

 しかし、同族だからこそ前経営者の築いたものを破壊して改革を進めることができる、という見方もある。実際、トヨタ創業者・豊田喜一郎は、父・佐吉が自動織機によって築いた財閥の二代目におさまることに満足せず、国産乗用車の開発に乗り出した。当時の日本の自動車保有台数はは約1万5千台でその大半が輸入車だった。現在の8千万台に比べるとゼロに等しい数だった。そんな時代に、財閥の資金をつぎ込んで自動車産業を興そうとした喜一郎に、幹部社員はこぞって反対した。しかし喜一郎は「会社を潰しても自動車をつくりたい」と夢に向ってまい進した。まさに創業家の人間だからできたことだったといえる。

 一方、日本の自動車産業のもう一人の巨人・本田宗一郎は、自分が育て上げた会社を私物化することを厳しく戒め、息子にも継がせなかった。社名に「本田」と付けたことさえ後悔していたと言う。

 世襲経営の良し悪しを一概に判断することはできない。肝心なことは、その人物が社長となることが、会社にとって最善の結果をもたらすかということである。幼い頃から経営者として奮闘する父親の姿を見て育った息子が最適任者となる可能性は大いにある。しかし、能力もないのに我が子可愛さで社長に据えた結果、会社を潰してしまうケースも山ほどある。いずれにせよ、下手をすればトヨタでさえ潰れてしまうかもしれない危機的な時代にあっては、次代を担う跡継ぎ選びは、これまで以上に難しい問題であることは間違いない。

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