セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.244『あきれた話』

GS業界・セルフシステム

2009-02-02

 先月17日、愛知県豊山町の国道41号線沿いにあるガソリンスタンド・K石油から警察に、前日午後4時半ごろから当日の午前10時ごろまでに販売した灯油約1,800㍑にガソリンが混入していたとの通報があり、警察と消防が注意を呼びかけたところ、同日午後11時までにはほぼ回収することができたと地元新聞が報じていた。そのスタンドは独立系ノンブランド店で、店主自らがタンクローリーで油槽所から製品を運んでいたのだが、荷降ろしの際切り替えレバーの操作を誤り、ガソリンを混入させてしまったようだ。

 ところが翌18日夜、となりの名古屋市北区の団地で石油ファンヒーターから出火する火事があり、消防が調べたところポリ容器にガソリンが混入していたことが判明、出火元の女性の「国道41号沿いのガソリンスタンドで買った」との証言が報じられるや、私も含め多くの人たちが“K石油の油に違いない”と思ったが、実際は別のセルフスタンド(K石油はセルフではない)で購入した“純度100㌫”のガソリンとのことだった。事実、この事件を私は19日の朝、自分の店に荷降ろしに来たタンクローリーの運転手から聞いたのだが、「おとといのK石油の…」と私が言うと、ローリーの運転手は「K石油で混ざったガソリンは2割程度だと聞いているが、(映像で見た)昨晩の火事はその程度で起きるような燃え方じゃなかったですよ」と分析していた。

 火元となった部屋の住人はフィリピン国籍の女性だったのだが、その後の調査で彼女が“灯油”を買ったセルフスタンドが判明し、同時に次の三つの点が明らかになった。まず、その女性は自動車用給油レーンで、インターホンを介して従業員に「ケロシン」はこの場所で給油できるのかと尋ねたところ、ケロシンが何のこと分からなかった従業員が給油許可をしたという。次に、この女性がケロシンと思ってガソリンをポリ容器に給油するのをやめさせようとしなかったこと。もうひとつは、この従業員が危険物保安監督資格を有していなかったこと。つまり、燃料油販売のイロハさえ知らない無資格者が給油許可を出していたことが、今回の事故を引き起こした原因だったのである。

 消防法の規定により、セルフスタンドには甲種または乙種四類危険物取扱者免状を持つ者が常駐していなければならないが、これが遵守されていないのが現状である。また、いわゆる給油許可業務だが、これも今回のような事件が起きると何の意味も持たなくなってしまう。むしろ、セルフコントローラーの操作に気を取られて、各給油レーンの客の動きを注視したり、放送設備を用いて応対することなどが難しくなるのではないだろうか。大抵のセルフスタンドは、給油操作の過程で油種や数量などをボイスガイダンスで知らせるわけだから、そのうえ手動でいちいち給油許可を出すことが一体どれほど安全性に貢献するというのか。ましてや、今回のように「ケロシン」と訊かれて「ガソリン」の許可を出してしまうようなアホをセルフコントローラーの前に座らせるぐらいなら、かえって自動操縦にしておいた方がマシということになる。

 仮に監視員が、「ケロシン」と「ガソリン」を聴き間違えたとしても、ガソリンをポリ容器に給油するのを“許可”してさえいなければ、今回の事故は防げたはずである。これは私の推測だが、恐らくそのスタンドは、今回だけたまたまポリ容器への給油を許可したのではなく、日ごろから見て見ぬ振りをしていたのだと思う。あるいは、ポリ容器にガソリンを給油してはいけないということすら従業員は知らなかった(つまり教育を受けていなかった)のかもしれない。

 こういう事件が起こるたびに、セルフは危険だ、もっと厳しく規制しろなどと騒ぐ輩がいるが、実際のところそれらはセルフのシステムに問題があるのではなく、それを運営する人間の資質に問題があるのである。むしろ、さらなる機械化を進め、ヒューマンエラーの介在する余地のないシステムを構築してゆくべきである。

 ところで、この事件が起きた時、愛知県石商の幹部は「ああ、組合に入っていないK石油がやらかしたのか」と冷笑していたらしいのだが、その後、当該業者が組合員、それも経営者が石商の理事まで務めていた“立派な”会社だということがわかった。さらに驚いたことにその経営者は、県の危険物安全協会の会長も務めていたという。あきれてしまう話ではないか。

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