セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.253『正直に、誠実に』

オピニオン

2009-04-13

 だいぶ前に雑誌で読んだ“ちょっとイイ話”。米国フロリダ州で行なわれた少年野球の試合でのこと、一塁手がゴロを捕球して一塁から二塁へ向かうランナーにタッチしようとした。ベンソンという名の女性審判員はランナーにアウトを宣告したが、一塁手は、「ランナーにタッチしませんでした」と申し出た。彼女は判定を取り消し、ランナーを二塁に進めた。

 2週間後、別の試合の最中に同じ少年が同じようなプレーをした。またもやベンソンが審判だった。今回はこの少年がタッチし損なったと思って、セーフを宣告した。少年は何も言わずに自分の守備位置に戻ったが、彼女は少年の目つきから何かおかしいと感じ、少年に近づいて、「ランナーにタッチしたの?」と尋ねた。すると、少年は、「はい」と答えた。

 ベンソンが判定を覆してランナーにアウトを宣告した時、相手チームのコーチは抗議したが、彼女は2週間前にあったことを説明して、こう言った。「子供がこんなに正直なら、その子に有利な判定を下すしかありません」─。

 一方、先日新聞で読んだ“あまりにヒドイ話”。今年1月、新潟県内の中学生のフットサル大会で、チームのコーチを務める教頭が、決勝トーナメントで苦手チームとの対戦を避けるため、2位通過で別のブロックに入るようリーグ最終戦で故意に大敗するよう選手に指示していたことが明らかになった。その試合は、選手たちがオウンゴールを6度も続けるという異常事態となった。相手校からの抗議で、没収試合も検討されたが、ルール違反ではないため試合は続行されたという。日本サッカー協会は、この事態を重く見て、教頭を1年間の活動停止とする処分にすると発表した。

 自軍のゴールに6回もシュートしなければならなかった子どもたちの気持ちはどんなだっただろう。勝つことが何よりも優先し、そのためならいかなる手段を講じても良いという“大人の世界の常識”を学習する忘れがたい貴重な経験となったに違いない。いやしくも教育者の肩書きを持つ人間が、子どもに八百長試合をするよう命じるなんて、世の中そこまで荒廃しているのかと愕然とさせられる。

 オウンゴールを何回しても、それはルール違反ではなく、一つの“戦術”だと言う向きもあろう。しかし、ルールに違反していなければそれで良いのだろうか。良心の痛みを感じない振りをしてまでやるべきことだろうか。翻ってわたしたちの業界でいま起きていることを観察してみれば、やはり“ルール違反とは言えないが、フェアじゃない”と思えることが見受けられる。

 例えば、クレジット会員に入会しないと提供されない価格を、あたかもフリー客でも給油できるかのように、一番目立つ場所に一番大きく掲出したり、最安値の価格に誘引されて千円分給油したら、900円分しか給油できず、残りの百円分はリライトカードに書き込んで、「次回ご利用分」として強制的に預かられたりするといった商法などである。また、どれだけ赤字を出しても量さえはければ良いとばかりに、自殺点ならぬ自殺“店”を展開する元売の姿勢も、フェアじゃない。

 「そんなこと言ったってそれが現実であり、手段を選んでいては勝ち残れない」との主張の前には、フェアプレー精神は所詮“蟷螂の斧”、つまり、馬車に立ち向かうカマキリみたいなものだ。しかし、このままモラルハザードが進んでゆくと、我々の業界は荒廃の一途をたどってゆくように思えてならない。ガソリンの需要が伸び続けていたころならまだしも、この先どんどん市場がしぼんで行こうとしているいまこそ、業界全体で何らかの秩序を築いておくべきではないだろうか。とはいえ、本来ならその役割を担っている役所や元売や組合はほとんど頼りにならないのが現状だ。

 勝ちさえすれば良いという精神が幅を利かせているいまの世にあって、先の野球大会での少年の経験は、ほんのちょっぴりホッとさせられる出来事ではある。セルフであろうがフルサービスであろうが、系列店であろうがPB店であろうが、正直に、誠実に商売をする者が報われる社会であってほしいと願う。

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