セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.255『鉄と綿』

GS業界・セルフシステム

2009-05-04

 『重さ10㎏の鉄と綿とではどちらが重たいか』─こう尋ねられ、とっさに“鉄”と答えてしまったことがないだろうか。重さ(厳密に言うと質量)が共に10㎏だという数字よりも、堅い鉄と柔らかい綿というイメージの方に気をとられると、このクイズに引っかかってしまうというわけ。

 しかし、実際に10㎏の鉄と綿をはかりにかけると、空気の浮力が加わることによって鉄の方に傾くのだという。また、実際に10㎏の鉄と綿を人が持ち上げるとなると、綿の方がはるかに体積が大きく、従って体全体を使って持ち上げることになり、鉄のそれよりもはるかに重たく感じるのだそうだ。このように、机上の計算では同じ重さのものも、実際の環境や感覚といった要素が加わることによって異なってくる。

 では、次のクイズ。『ガソリンの仕入れ価格が月初に一気に4円上がるのと、その月に1週間単位で1円づつ上がるのとでは、月末の時点でどちらの上げ幅が大きいか』─前述のクイズと同じで机上で計算すれば上げ幅は同じ4円なのだが、ガソリンスタンド業界という実際の環境に置くと答えは異なってくる。月初にいきなり4円上がれば、大抵は上げ幅相当分か、若干の便乗値上げ分を加味した値上げがなされるだろう。しかし、毎週1円ずつじわじわ上がると、値上げするタイミングがつかめないまま、月末を迎えることになる。

 それどころか、ガソリンの減販という不安要素が働いて、この間にもずるずると値下げをしてしまい、月末には仕入れの値上がり分と売価の値下げ分というダブルコストを抱えるGSすらある。まるで、イソップ物語に出てくる愚かなロバのように、湿気を含んだ綿を背負っているようなものだ。仕入れ価格の週改定方式への移行は、ただでさえ損得勘定が苦手なGS経営者の感覚を、ますます狂わせ、死を早めさせているようだ。

 じゃあ、もう一問いってみよう。『油外収益を10万円稼ぐのと、販管費を10万円削るのとでは、どちらが儲かるか』─これまた、どちらも10万円で同じということになるが、実際にはそうでないことは明白だ。油外収益を稼ぐには、資金や設備や人材が必要だ。そのリスクは決して小さくない。

 先日、交差点の角にある大型セルフスタンドを信号待ちのあいだ観察していた。店頭に『スタッフ募集中!時給930円から』の看板。セールスルームにオペレーターらしき男性が一人、フィールドに女性スタッフが一人いて、計量機を拭いたりしていた。“昼間は2人体制でやっているのだな”と眺めていると、洗車機の陰からひとり、リフト室の中からまたひとりとスタッフが姿を現わし、合計6人のスタッフがいることがわかった。すべて最低時給930円のアルバイトとして、10時間で55,800円。粗利500円のワックス洗車に換算すると約110台。もし午後から雨が降ってきたら…などと考えながらため息をついた。

 近年、元売はマージン5円程度で経営ができるよう系列店に体質強化を求めているそうだが、それだけでは食ってゆけないので、洗車や整備、中古車販売やレンタカービジネスなどでそれを補うよう提案している。本当にそれが可能なら問題はないが、この不景気の中、はたしてどれだけの成果を得られるだろうか。例えば、定額給付金を受け取ってポリマー洗車をかけようとする客はどれほどいることだろう。

 一方“給油のみセルフ”という蔑称で呼ばれている我々ローコスト・セルフスタンドも、この減販時代にあって経営は決して楽ではないが、油外収益への投資を頑なに拒み、最低数の人員で運営することで、何とか生き延びてゆくことができている。プリカによる決済方式に特化したテクナセルフシステムを導入していることも大きい。

 慢性的な薄利体質のうえに、需要減の長い下り坂を迎えたいま、不安定要素の多い「油外収益10万円」を追い求めるより、確実に実現できる「販管費10万円」の方が、はるかに“軽い”というのが私の答えだ。

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