セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.259『シャンプー』

政治・経済

2009-06-01

 先日テレビを観ていたら、オリックスの子会社で、全国で約400店舗を運営する「QBショップ」というヘアカットのチェーン店のことが報じられていた。1,000円均一をウリにしており、作業を徹底的に効率化して、ひげ剃りとかシャンプーは省きヘアカットのみで1人約10分程度で仕上げる。低価格が受けて急拡大を続けているそうで、これまで9割が男性客だったのだが、昨今の不景気で女性客が3割程度を占めるまでになってきたのだとか。

 これに脅威を感じた理・美容業界は、「頭の毛を掃除機みたいなもので吸うだけでは不衛生」だとして、業界組合を通じて行政を動かし、シャンプー設備の設置を条例で義務付けさせるようにしているとのことで、愛知県でも本年度から施行されている。そうした地域では、苦肉の策として、従業員の休憩室に「温水を供給することのできる洗髪設備を設ける」ことで、条例をクリアしている。QBショップの社長はインタビューで、「非常にばかげたことだと思いますね」とはき捨てるように一言。「洗髪はわたしどものサービスに入っていませんし、お客様も求めていませんので、我々としてはまったく必要のない設備ですね」─。

 ローコスト店に対する露骨ないやがらせと言えなくもない。思い起こせば、セルフスタンドが認可された1998年、消防法によりセルフスタンドに新たな設備の設置や管理・監督業務が義務付けられた。それらが、今日までセルフ改造・運営に過重なコスト負担となっている。規制緩和と言いながら、「安全性の確保」の美名のもとに新たな規制が幾つも設けられ、今日に至っているのである。

 しかし、それにも増して厄介なのは、元売による“規制”だ。彼らが策定した「セルフスタンドはこうあるべき」というプロトタイプが、日本のセルフスタンドを高コスト体質に仕向けてきた。洗車機がなくちゃダメだ、整備ができなきゃダメだ、給油だけじゃダメだ─こうした元売の指導に従順に従ったスタンド経営者は、燃料油を500キロ販売し、油外収益を250万円あげなければ採算が取れない大型セルフスタンドを運営させられている。理髪店に例えるなら、1回1,000円の料金で、シャンプーどころか、ネイルケアや足つぼマッサージまでやらねばならないという感じだ。

 行政も元売も、いやがらせをしているという認識はないのだろうが、結果的に、彼らの指導はセルフスタンド経営にとっての足かせとなっている。この先、ますます低マージン経営を余儀なくされるというのに、あれこれと余分な設備の設置を義務付けられたのではやってゆけないのだ。おまけに、私のようなPBスタンド経営者には、石油連盟から年間18万円もの分析委託料が徴収される。PBはいかがわしいものを販売している可能性が高いという偏見に基づいたこの不公平な制度も、いやがらせの一種と言えるのではないか。

 QBショップの拡大を阻止せんとする理容組合の支部長さんは、インタビューに答えてこう主張していた。「いまのままで行ったらなし崩しになってしまって、そういう店ばかり増えてゆくと思う。現実に800円という店も出てきています。800円の店が出れば、700円も出てくるでしょう。もっと恐いことが起きるんですよ。もっと衛生的でなくなる」─。

 セルフは「危険」、PBは「粗悪」と決め付けるのとよく似た思考パターンで、ローコスト経営はどの業界でも偏見と敵意の的となるのだなと感じた次第である。しかし、そのように迫害する同業者たちは肝心のこと、すなわち、どのような商品やサービスを選ぶかは客であるという事実が見えていない。もし、安くても衛生上問題があったり、粗悪品であったりするなら、理髪店もガソリンスタンドも、客からの支持を失うだけのことだ。むしろ、差別化をはかって客単価を上げ、価格競争に巻き込まれずに収益をあげる経営を実践すれば良いではないか。それをせずに、行政や条例によって競争相手を潰そうというのは下の下の行為だと思う。ちなみに、わたしの行きつけの床屋は、洗髪もひげ剃りも(鼻毛のカットまで)してくれて、1回1,500円である。

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