セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.270『終戦の日に寄せて』

オピニオン

2009-08-17

 今月15日は「終戦の日」。テレビでクリント・イーストウッド監督の戦争巨編「硫黄島からの手紙」が放映されていた。渡辺 謙扮する硫黄島守備隊長・栗林忠道陸軍中将は、圧倒的な戦力の米軍を前に、島全体を要塞化して徹底的な持久戦を展開する。降伏することも、自決することも禁じられ、ひたすら地下壕にこもって戦い続ける兵士たちの姿をエモーショナルに描き、戦争の悲惨さを訴えた名作である。

 我々も、硫黄島守備隊の兵士同様、いつ終わるとも知れぬ持久戦を戦っている。とはいえ、蒸し風呂のような地下壕の中で、飢えと乾きに耐え、生き地獄の中で絶望的な戦いを強いられた人々の事を考えると、セルフスタンドの経営の苦労など屁のようなものだ。ガソリンが少々売れなかったからといって命までとられるわけでなし、あしたがあるさという楽観的な気持ちに浸ることができる。

 それにしても、昭和19年7月にサイパン島が陥落し、大本営が定めていた“絶対国防圏”が崩壊した時点で、日本の敗北はもはや決定的であったにもかかわらず、その後も1年以上に渡り戦争を遂行した日本の国家指導者たちの罪はあまりにも大きい。今月9日から11日までの3日間、「NHKスペシャル」では、帝国海軍の中枢・軍令部のメンバーが戦後に語った証言記録が紹介され、国民よりも組織を守ることに腐心するエリート集団の独善的で内向きな体質がおびただしい流血の罪を招いた事を厳しく追及していた。

 日本のガソリンスタンドが過剰状態であることはだれの目にも明らかだ。今後、成長戦略を描くことは難しい局面にある。しかし、元売は相変わらず販売シェアにこだわり、系列販社の拡大と量販を推し進める作戦を続行中だ。体力に乏しい中小零細の特約・代理店には、さっさと“バンザイ突撃”でも何でもすれば良いとでも考えているのだろうか。無益な価格競争による出血をこれ以上出さないためにも、元売各社には系列販社の速やかな撤退を勧告したい。

 陸海を問わず、日本軍に浸透していた思想は、物質力よりも精神力によって勝利を勝ち取るというものだった。その意味においては、太平洋戦争は始まる前から勝敗が決していたと言っても過言ではない。近代兵器の研究を軽視し、兵站の確保を怠り、大和魂で突破せよと兵に命じた戦争指導者たちと同様の思考を持つ経営者の事を、私は「帝国軍人型経営者」と呼びたい。

 二言目には「気合を入れてガンバロー!」と言っている経営者を私は信用できないし、お客様へのまごころと感謝の気持ちがあればあれも売れるこれも売れるという非科学的な講釈にも懐疑的である。精神論を全否定するつもりはないが、元気なお店は他店より10円高くても売れるという論理にはどうしてもついて行けない。

 かつて、瀬島龍三と同期の陸軍参謀だった堀 栄三という人物は、すでに陸大在学中に「鉄量を破るものは突撃ではない。ただ一つ、敵の鉄量に勝る鉄量である」というレポートを提出し、物議をかもしたという。彼のような人物が陸軍中枢で多数を占めていたら、あの愚かな戦争は起きなかったかもしれない。

 ガソリンを安く仕入れる努力や、セルフ化によってコストを抑制する努力を怠り、大本営(元売)の言うがままに、笑顔とまごころと気合の銃剣突撃でこの難局を突破できると考えているスタンド経営者は、かつて太平洋の島々で屍を重ねた日本軍と同じ思考パターンに陥っていると思う。太平洋戦争において、連合軍の圧倒的な物量と近代兵器の前に散っていった兵士や、大型爆撃機や原子爆弾の犠牲となった人々のことを思うと、エリート主義と精神主義に導かれた戦略がいかに悲惨な結果をもたらすかを思い知らされる。これを糧として、我々の業界も愚かな戦争をやめて、平和な秩序を築きたいものである。

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