セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.273『優先順位』

GS業界・セルフシステム

2009-09-07

 民主党が政権を獲ったことで、マニフェストで謳った、無駄な公共事業の象徴的存在である八ッ場ダムの建設工事中止が現実化しつつある。今月3日、これまでダムの必要性を訴えてきた国土交通省は、手のひらを返したようにダム本体工事の入札延期を表明した。テレビでも毎日のようにこの問題が取り上げられ、ダム建設を当て込んでいた地元経済をどうするのかという質問が、民主党議員にぶつけられている。

 民主党は「ダム建設はその場限りの経済効果しかない。観光地収入などは自民党政権の作り出した幻想に過ぎず、より実効性のある地域活性策を提案してゆきたい」といった、奥歯に物のはさまったような説明を繰り返しているが、ホンネは「政策実現のために長野原町の人たちには泣いてもらうしかない」ということではないだろうか。政権交代とはそういうものだ。

 あるガソリンスタンドがセルフ化するにあたり、国の助成金制度を利用しようとしたら、「GSをセルフ化するということは従業員のリストラにつながることであり、助成金の本来の趣旨である“雇用促進”に逆行する」とのクレームが付いた。そこでその会社は、「セルフ化は従業員の“効率的かつ効果的な”雇用を促進するものであり、趣旨にもとるものではない」と釈明し、融資を承認してもらったのだが、これも方便と言わざるを得まい。実際のところ、セルフ化すれば、“ムダな”人件費は削減せざるを得ず、それこそがセルフ化のメリットのひとつであるからだ。

 そもそも“絶対的ムダ”というものは存在しない。マンガ好きの総理大臣の肝いりで計画された「アニメの殿堂」(国立メディア芸術創造センター)も中止される見通しだが、これなんぞ自民党すら異議を唱えない。しかし、少数派かもしれないが、「アニメの殿堂」はぜひとも必要なものだと主張する人々もいる。つまり、ムダというのは“相対的”なものなのであって、限られた予算を優先順位の高い順に用いてゆくことが、結果的に無駄の排除へとつながってゆくと言うわけだ。

 問題は、その優先順位が本当に正しい順位付けとなっているかということである。ガソリンスタンドにおいては、セルフ化によってこの順位付けが劇的に変化した。繁盛店の条件として上位にランキングされていた「元気な挨拶」や「きびきびとした接客」は、実は無くてもよい、むしろ無い方がよいというところまで落っこちてしまったのだ。店頭にだれもいなくても、客自身が自分で給油してさっさと出てゆくセルフ方式が、当初の予測を覆して、大多数のドライバーたちに支持されたことは、まさに“政権交代”並みの大転換をこの業界にもたらしたのである。

 無論、セルフにはない人間味のあるサービスで対抗しようとする優良フルサービス店があることも事実だ。優しい笑顔で「いらっしゃいませ」、窓はピカピカに磨いてくれるし、灰皿もきれいに洗ってくれるうえに芳香剤まで入れてくれる。おしぼりをサービスする店や、タダで空気圧をチェックしてくれる店もある。仮に、油外商品の販売につなげようという“下心”があったとしても、そうしたサービスはあればあったに越したことはない。

 しかし、そのような快適接客のためのコスト負担として、となりのセルフ店より10円高くガソリンを買っていただけるかと言えば、まず無理だ。せいぜい2~3円程度の価格差しかつけられず、それでもセルフに徐々に客を奪われているのが実情だ。つまり、従来型の接客サービスは相対的に見てやはり無駄ということになる。セルフ店とて同じことだ。何百キロも売れるという幻想を抱いて大型店舗を構え、その結果高コスト体質に苦しんでいる“ダム型”セルフスタンドは少なくない。スタンド業界も、いま一度予算の優先順位を見直し「脱ダム宣言」すべきではないだろうか。

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