セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.285『先行き不安』

政治・経済

2009-11-30

 もうずいぶん前のことだが、SONYの故・盛田昭夫会長が、テレビのインタビューで円高について語った興味深いコメントをいまも覚えている。氏曰く「自国の通貨の値打ちが上がったということは、本来その国にとって有利なことであり、喜ぶべきことのはずなのに、政府も産業界も“困った困った”と言っている。これ、おかしいことですよ。産業構造を変えないとダメなんですよ」─。

 当時、経済のイロハも知らなかった私(いまでも分からないが)は、テレビを観ながら、「なるほど~そう言われてみればそうだよな~」と思った次第である。盛田氏は後に、石原慎太郎と共著で執筆した「“NO”と言える日本」という本の中で、すでにマネーゲームに依存していた米国経済の脆弱性を指摘し、米国頼みの経済活動の危険性について警鐘を鳴らしている。昨年の“リーマン・ショック”で、そのことがはからずも証明されたわけだが、皮肉なことに当のSONYも甚大な打撃を被った。

 相変わらず、輸出を生業とする我が国であるから、今回の円高でまたも苦境に立たされている。一方、輸入原材料は安くなるはずなのだが、スーパーが「円高差益還元セール」をするのに対して、ガソリンスタンドはリードタイムがあるからという理由ですぐには価格が下がらない。というか、円高になる前からとっくに“利益還元”している状態で、これ以上下げられない。

 今回の円高を誘発したのは、我々の業界とは縁の深いドバイ首長国という国の政府系開発会社の資金繰り難が発端なのだそうだ。アラブ首長国連邦を構成する七つの首長国の中で、小国ながらも、潤沢なオイルマネーをテコに外資を誘導、一躍中東の金融センターと呼ばれるまでの急成長を遂げた。一時期は世界中の建設重機の40㌫がドバイに集結していると言われるほどの建設ラッシュに沸き、SF映画に登場する未来都市のような摩天楼が砂漠に築かれたのも束の間、金融危機でバブル崩壊、ドバイ開発に巨額の資金を融資していた欧州系金融機関が5兆円もの焦げ付きを被ったため信用不安が高まり、ユーロ安・円高となったというわけ。

 リーマン・ショックの大打撃から少しずつではあるが立ち直りの兆しを見せてきた世界経済を、二番底に突き落とすかというような今回の出来事だが、要は超高層ビルや大規模リゾートをいつまでも作り続けることができるという前提で海外の投資家からカネを借りまくった挙句の蹉跌という、過去に幾度となく繰り返されてきたパターン。一体、人類は何度こういう失敗を繰り返せば気が済むのだろう。

 一方、世界を回遊するマネーという大ダコは、ドバイのバブル崩壊で、また新たなタコツボに逃げ込もうとさまよっている。差し当たり、緊急避難的に円が買われている様子だが、この先しばらく円高が続けば、GS業界もさらなるデフレ圧力の中で、一段の値下げ競争に突入してゆくことになりそうだ。あるいは、再び原油に対して投機マネーが流れ込み、ガソリン価格の高騰を引き起こすということも考えられる。

 目まぐるしく変化する世界経済のうねりの中で、GS経営者は木の葉のように翻弄されるしかない。新聞や雑誌を読みあさっても、先のことは予見できない。仮に予見できたとしても、なす術がない。毎度同じことの繰り返しで恐縮だが、視界ゼロの状況においては、ただ愚直に現金決済とコスト削減を進めることが、生き残るために何よりも肝要な手立てであると私は確信している。

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