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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.294『品格』

エンタメ・スポーツ

2010-02-08

 2001年にメジャーリーグ1年目のイチローが、Rソックス戦9点ビハインドの9回に出塁、2盗を決めた。しかし公式記録員はこれを「盗塁」と記録しなかった。メジャーリーグでは、大量得点差のついた試合では、“守備側の無関心”を理由に盗塁やバントはすべきでないとされている。『点差がどれだけあろうが、最後まであきらめずにプレーすべきではないか』との意見もあろうが、これは100年以上の歴史と伝統の中から生まれた“明文化されていないルール”であり、そこには勝つこと以上に対戦相手に対する敬意を払うことが重要であるとの美意識が存在している。

 メジャーリーグ同様、100年以上の歴史と伝統を持つ大相撲において、これまで朝青龍が土俵上で表わしてきた粗暴で不敬な振る舞いは、品格ある横綱相撲を求める人々にとって不愉快きわまりないものだった。立会いは大抵張り差しのうえ、けたぐりや肩透かしで勝ったり、寄り切ったあとにダメ押しを食らわしたり、高らかにガッツポーズをしたかと思えば、負ければ負けたで物言いを求めたりと、傍若無人の限りを尽くしてきた“横綱”が、遂に土俵外のトラブルで事実上解雇された。「驚いた」「残念だ」との声がもっぱらだが、「清々した」というのが私の率直な感想だ。記者会見で「運命だと思う」と涙ながらに語る朝青龍に、「自業自得じゃ!」と座布団を投げつけてやりたかった。

 スポーツの世界とは異なり、生き馬の目を抜き、死に馬に鞭を当てるのがビジネスの世界だ。そこには勝者の慎みも、敗者へのいたわりもない。むしろ他社を出し抜き、蹴落とさなければ生き残れないのが現実だ。GS業界も然りで、元売販社が運営する“横綱級”の大型セルフスタンドは、あちこちで不当廉売騒ぎを引き起こしたり、クレジット会員やメール会員などを募っての多重価格戦術で市況を混乱させたりと、とても品格ある横綱相撲とはいえない。たまりかねて全石連が「価格表示ガイドライン」なるものを策定し、業界の品格を保たせようとしたものの一顧だにされず、朝青龍になめられっぱなしだった横綱審議会さながらの体たらくである。

 しかし、元売販社の販売価格に“ウチの仕入れ値より安いじゃないか!”といきり立つGS経営者についていわせてもらえば、組合の会合で文句垂れてる暇があるんだったら、自分も安く仕入れるための策を講じるべきではないか。業転ガソリンを仕入れるようなことは、系列GSの品格にもとるなんて格好付けている場合ではない。元売からはせいぜい三段目程度にしか見られていないというのに、横綱気取りで型どおりの四つ相撲にこだわっているようなものだ。一方、ローコストを追求したセルフスタンドを、“あれではまるでガソリンの自販機だ”と揶揄する声がある。しかし、消防法というルールに従っている限りは、何も悪いことではない。それはそれでひとつのスタイルであり、小兵力士が猫だましや八双跳びなどの技を繰り出して立ち向かうのに似ている。厳しい競争を生き残ってゆくためには、あらゆる手段を尽くすべきなのだ。

 今回の朝青龍事件の顛末には、看板力士に毅然たる処置をしてこなかった相撲協会にも大きな責任がある。横綱は角界の頂点に立つ存在であり、ただ強いだけでなく、心技体すべての面で陶冶されることが求められる。翻って、GS業界の親方(元売)たちは、業界内でリーディングカンパニーと呼ばれる代理・特約店に、健全な育成をほどこしてきただろうか。利用するだけ利用して経営が傾いてきたら“引退勧告”といった事象を近年よく見聞きする。その会社で働いていた多くの従業員や、傘下にあったサブディーラーの悲哀はいかほどのものだったか。元売には業界発展のために、品格ある代理・特約店の育成を望みたい。

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