セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.296『2分の1成人式』

オピニオン

2010-02-22

 先日、小学4年生の三男坊主の授業参観に行ってきた。そうした類のことはすべて家内が担当していたのだが、家内が風邪をひいたため、ピンチヒッターを頼まれてしまった。どうしても行ってほしい、なぜならその日は「2分の1成人式」なのだから、と─。

 「2分の1成人式」とは、愛知県が独自に始めた活動で、成人の半分の年齢である10歳(小学4年生)を子どもの成長の一つの節目として捉え、子どもたちが10年間を振り返るとともに、自らの将来を考える場とするという教育プログラムだ。とは言っても、子どもたちがそれぞれ親への感謝と将来の夢を順番に2~30秒程度スピーチするという、どうということのないものなのだが、せっかく子どもが親に向けて話すのに、二親のどちらも来ていないのは可哀想だろうということで、暇を持て余しているセルフスタンドの店主がいそいそと参観に出かけて行ったというわけだ。

 果たして、子どもたちが次々に、恥ずかしそうにスピーチを披露してゆくのを、ニコニコしながら聞いていたのだが、あることに気が付いた。子どもたちは「何々を買ってくれてありがとう」とか「どこそこへ連れて行ってくれてありがとう」といった物質的な事柄への感謝はほとんど述べず、もっぱら、親から受けた励ましや慰めなど、精神的な事柄への感謝を述べていた。とりわけ、半数以上の子どもが、「あの時、叱ってくれてありがとう」と述べたことに感銘を受けた。

 大人であれ子どもであれ、叱られることが好きな人間はいないが、あとになって振り返ると、愛情ゆえに叱責された出来事は、楽しかったどんな思い出よりも貴重なものとなるのだなと感じた。“人に叱られるより恥ずかしいことは、人に笑われることだ”という格言があるが、我が子が将来、人様に笑われることのないよう叱っておくのが親の務めというものだ。

 日本のセルフスタンドは、1998年に産声を上げ、今年の3月で満12歳となる。“2分の1成人式”はとっくに過ぎ、来年は中学生という年齢だ。すくすくと成長してきたかに見えるセルフスタンドだが、親である元売がきちんとした教育をしてこなかったせいで、相変わらず数量を伸ばすという足し算しかできず、そこから経費を引いたら幾らになるかという引き算や、掛け算や割り算を使って利益率や償却率を計算するということはからきし苦手で、世間から笑われている有様なのだ。このまま中学に進めば、落第(閉鎖)間違いなしだ。 

 「2分の1成人式」では、自分が将来なりたいものを発表するのだが、「漫画家になりたい」「プロ野球選手になりたい」「デザイナーになりたい」など、子どもらしい夢にあふれていた。言うまでもなく、「ガソリンスタンドの店員になりたい」と言う子は、我が子を含め皆無であった。10歳の子どもの目にも、我々の業界は魅力的なものには映らないのだろう。子どもたちの憧れるような職業とまでは行かないが、業界人の端くれとして、将来、「ガソリンスタンドの店員だけはなりたくない」なんて言われないようにしなくては、と思う。

 子どもたちの笑顔を見るのは、親にとって喜びでもあると同時に、プレッシャーでもある。話はいきなり飛躍するが、1962年のキューバ危機の時、核戦争を引き起こすかもしれないソ連艦船の海上封鎖を決断する際、ケネディ大統領は「この世に子どもさえいなければ、こういう決定は容易なんだが」と語ったという。

 そうなのだ。まだこの先10年間、子どもを養い育ててゆかねばならないというプレッシャーがなければ、スタンド経営の苦労など、いかほどのものでもない。「おとうさん、ありがとう」と言ってもらうために、きょうも父は“もうからん、もうからん”と愚痴をこぼしながら、仕事場に向かうのだ。

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