セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.301『接客無用』

GS業界・セルフシステム

2010-03-29

 財団法人・日本生産性本部は、新年度に入社する新人社員を「ETC」と命名した。親密になる直前まで「心のバー」を開かないからだという。今年の新入社員は、厳しい就職戦線をくぐり抜けており、情報収集に必要な携帯電話の操作などはうまい反面、人とのコミュニケーションが苦手な面があるという。そのため、上司や先輩が急いで人間関係を築こうとして「スピードを出し過ぎる」と、「心のバー」を折ってしまう恐れがあるのだという。

 新人社員を十把一絡げに「ETC」と決め付けてしまうのはいささか乱暴な気がするが、若者に限らず、昨今は、人間同士のコミュニケーションが希薄になっていることは間違いない。セルフスタンドが支持される要因は、こうした環境と無縁ではなさそうだ。事実、「従業員と接触しなくても済むから」という理由でセルフスタンドを選ぶドライバーは少なくない。このあいだも、「フルサービスのスタンドへ行くと、あれこれ勧めてくるからうっとうしい」という若者に、「そう思ったら“結構です”と断ればいいじゃないか」と諭すと、「断るのがめんどくさい」とのことで、「価格が同じだったらセルフを選ぶ」ときっぱり。

 私のスタンドでも、たまにフィールドに出てごみなど拾いながら、給油中のお客様に「コンチワ」などと声をかけてみるのだが、チラッとこちらを見るだけで、何の返事も帰ってこないことが多い。最近では挨拶をかけることすらうっとうしがられるご時世なのかと思い知らされる。かく言う私自身も、店員さんに声を掛けられるのが苦手な性分だ。衣料品を買わねばならない時は、店員が話しかけてこない店を選ぶし、スーパーで試食を勧めている店員を見かけたら買物コースを変更する。「断るのが面倒くさい」からだ。そのくせ、店員同士がおしゃべりをしていたりするのを見るといらいらする。我ながら、わがままな性格だなと思う。

 また、床屋のおやじさんや、タクシーの運ちゃんに話しかけられるのもいやなので、必要なことを伝えたら、即、睡眠モードに入ることにしている。喫茶店や居酒屋にひとりで行って、店のマスターや常連客とおしゃべりするということも絶対にしない。そんな私にとって、セルフスタンドはとても性に合っている。自分でさっさと給油し、さっさと店を出てゆくことができる。スタッフの態度に苛立たせられることもない。「心のバー」を無視して突っ込んでくる暴走接客トークもない。実に居心地の良い空間だ。

 私はそのセルフスタンドを経営する立場でもある。そのモットーは、「自分にして欲しいと思うことをする、して欲しくないことはしない」ということ。来店するすべての客のニーズを満たすことは所詮不可能なのだから、自分の感覚を信じ、最大公約数を求めてゆくしかない。すなわち、客との接触を必要最小限とすることが、セルフの要諦であるとの持論を固守している。したがって、セルフスタンドでありながら、「給油以外はフルサービス」などというコンセプトを持つ店舗は、セルフの本質を理解していないと言える。第一、それではコストがかかり過ぎて、何のためにセルフにしたのかわからない。

 セルフは、高速道路に例えれば、接客サービスという“料金所”を撤廃したフリーウェイであり、客は「心のバー」の上げ下ろしをせずに済む。セルフが今日これほどまでに客の支持を得るようになったのは、ただ単に価格が安いからだけでなく、コミュニケーションを苦手とする現代人の感覚とマッチしたトレンドたり得たからなのだ。セルフ・イコール・ノンサービスだと考えることは誤りであり、口出し手出しをしないことが、ひとつのサービスの形態であるということを理解すべきだ。そういったわけで、きょうも私はオペレーションルームに閉じこもって、客がサクサクと給油してゆくのを眺めている。私と同じ考えを持つあるセルフスタンドの経営者は、自らを「ひきこもり社長」と称している。言い得て妙である。

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