セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.306『ガソリンスタンド・ノート』

GS業界・セルフシステム

2010-05-10

 コラムのネタ探しにと、インターネットで「ガソリンスタンド」関連のサイトを探しているうちに、味わいのあるサイトに出会った。「ガソリンスタンド・ノート」(http://g-stand.com)というサイトで、松村静吾という人が、ガソリンスタンドという建築物がいかに魅力的な存在であるかを、写真と文章で紹介しているサイトである。もっぱら、地方の古くて小さなGSを紹介しているのだが、それらは松村氏の言葉を借りれば、「建築基準とブランド意匠という2つの不自由な規制の枠の中で、せいいっぱい個性を発揮している」。

 確かにそのとおりで、UFOのようなキャノピーや、船橋のようなセールスルーム、城壁のような防火塀などを見ていると、全国にはこんなに個性豊かなガソリンスタンドがあるのかと驚いてしまう。松村氏は、GS業界とはまったく関係のない仕事をしておられるそうだが、氏の手にかかると、古びたガソリンスタンドがかくも美しく、可愛らしく、セクシーな被写体へと変身してしまうのだ。そして、その写真に添えられた文章がなかなか良い。例えば、栃木県のあるスタンドの写真には、こんなキャプションがあった。

 『国道が小さな峠にさしかかり、急に勾配を増してカーブする手前にこの給油所がある。まるでだまし絵のような複雑な形状と不思議な角度を持ったキャノピーの赤い帯が、ドライバーの目を惹きつける。昔、オーストリアに旅行した人からもらったお土産は、赤い上着にグレーのズボン、そして黒い帽子をかぶったチロル地方の兵隊の人形だった。いま、キャノピーの下に、同じ3名の山岳兵が一列に並び、峠を行き来する車をじっと見ている』─。

 う~ん、スゲェ…ガソリンスタンドをこんなにいとおしむ人が世の中にいるとは…と感心していると、この松村氏はNHK・BS放送の教養バラエティ番組「熱中時間」で、2008年6月に、「ガソリンスタンド熱中人」として紹介されたこともある、知る人ぞ知る人物だったのだ。松村氏は、個性的なGSが年々姿を消してゆく一方で、最近増えているセルフスタンドは、どの店舗を見てもほとんど同じような設計になっていると嘆いている。

 

 確かに、合理性を追求してゆくことによって、GSから“柔らかさ”とか“温かみ”といった要素が失われていっているのは事実だ。とりわけ、元売が建造する大型セルフスタンドは、「スターウォーズ」に出てくる帝国軍の戦艦・スターデストロイヤーみたいな威圧感を漂わせるものばかりで、松村氏が愛するGSたちとは対極にある存在だと思う。それで思い出したのだが、かつてモービル石油系列のGSで見られた円柱形の計量機なんぞ、どことなくR2-D2に似ていないだろうか…。

 閑話休題。私はセルフスタンドへの改造を希望されるスタンド経営者の方に、施設の改造は消防法上必要な箇所にとどめ、あとは既存の施設を利用することを勧めている。その理由は、イニシャルコストを抑えるという一点に尽きるのだが、結果的には、松村氏が愛する古き良きスタンドを遺すことに貢献しているのかなと思ったりもする。少々、古めかしくても、ガソリンを安く、早く、安全に給油することさえできれば、それでいいのだ。セルフ化に伴い、あれも変えこれも変え、店舗を一新させたいとの欲求は十分理解できるが、そのために、余分な費用をかけるなどということは、私の感覚ではまったく考えられない。セルフへの改造は“足るを知る”ことが肝要なのだ。

 松村氏が紹介するGSは、元売から見れば、“いつ閉店してもらっても構わない”ような店舗ばかりだが、反面、それぞれの地域で、永いものでは50年以上の歳月をしぶとく生き抜いてきた古武者でもある。私たちのスタンドも、その誇り高きものたちの一員となることができるだろうか。

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