セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.307『時代』

オピニオン

2010-05-17

 NHKの朝の連続ドラマ「ゲゲゲの女房」─言わずと知れた、漫画「ゲゲゲの鬼太郎」の作者・水木しげる(向井理)とその妻・布美枝(松下奈緒)の波乱万丈の物語。先週 (第7週) の放映では、しげるの恩師とも言える紙芝居屋の音松親方(上條恒彦)が突然訪ねてくる。テレビが普及し始め、紙芝居に群がっていた子どもたちがひとり、またひとりと姿を消してゆく中で、生活苦に陥ったかつての師が金の無心にやって来るというお話。劇中、しげるが布美枝にぽつりと漏らす言葉が印象に残った。「滅びるということは恐ろしいことだな」─。

 一方、先週のNHKの大河ドラマ「龍馬伝」(第20回)では、龍馬(福山雅治)が勝麟太郎の海軍塾の運営資金を松平春嶽(夏八木勲)に頼みにゆくシーンで、郷里で弾圧を受けている土佐勤皇党の志士たちの行末を案じる龍馬に、春嶽の政治顧問・横井小楠(山崎一)がこう言い放つ。「(時代が変わって)いままで値打のあったモンが、古びて用なしになっただけのことばい」─。

 紙芝居も攘夷派も、かつては人々に熱狂をもって迎え入れられたものが、時代の流れの中で捨て去られ滅び去っていった。そしてそこには当然、職や家、命までも失う人々が少なからずいた。仕方のないこととは言え世の無情さを感じずにはいられない。

 モータリゼーションと共に発展してきたガソリンスタンド業界が斜陽の時代を迎えて久しい。この10年間、毎年1,000ヶ所を超えるGSが閉鎖されてきた。日本国内のガソリン需要はこれからも減少傾向にあることから、石油元売は太陽電池向け部材の生産を強化するなどして、次代の収益源を育てようとしている。GSは、生みの親である元売からもいずれ“用なし”扱いされる時代が来るかもしれない。

 そうした不安に拍車をかけるかのように、日産自動車が12月に販売を開始する電気自動車「リーフ」が、すでに予約だけで初年度の目標販売台数の6割強を達成したとのニュースも報じられている。遂にガソリンを一滴も必要としない自動車が登場するわけで、こうしたクルマが道路を行き交うようになれば、GSはもはや紙芝居ほどの値打ちもなくなってしまう。業界人としては想像すらしたくない恐ろしい社会である。

 だが、突き詰めて考えれば、この世の中に朽ち果てることのないものなどあろうか。きのうまで揺るがないものとして信頼していたものが、あっけなくその価値を失ってゆく有様をわたしたちはしょっちゅう見聞きしているではないか。いかなる制度も企業も国家も、未来永劫存続することなど有り得ない。いま“勝ち組”と誉めそやされている会社も、いつの日か終焉を迎えることになる。それが“時代”というものなのだ。

 問題は、滅び行く業界の中にあっていかに“長生き”できるかということ。業容を拡大し成長し続けることこそ生き残る道だと考える経営者もいれば、積極的な行動を厳に慎み、体力の消耗を抑えることで生き延びようとする経営者もいる。また、魚が陸に上がるかの如く、まったく違う業態へと変身を遂げることで存続を図る会社もある。生き方は様々だが、大切なことは、ヒトも会社もいつの日か訪れる“死”までのあいだ、いかに健康で幸福に生きられるかということだ。逆の言い方をすれば、いつかは消えてなくなってしまう存在であると悟ってしまえば、健康や幸福を犠牲にしてまで危険を冒したり、無理を重ねたりしてもむなしいということでもある。

 “何を呑気なことを”と思う人もいるかもしれないが、将来への漠とした不安に追い立てられて拙速に行動したり、あるいは萎縮してしまったりしないよう、冷静でありたいと思う。時代は変わる。しかも、突然変わる。生き残れるかどうかは、“時の運”でもあるのだ。

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