セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.311『最小不幸社会』

政治・経済

2010-06-14

 「最小不幸社会を作る」─菅直人首相は、8日の就任記者会見でこう語った。「恋愛だとか絵を描くのが好きとか、そういった個人の幸福の部分には政治は立ち入るべきではなく、むしろ世にはびこる不幸を少なくしてゆくことが政治の役割である」というわけだ。

 これまでの指導者が一様に、「みんな」が安心して暮らせる国とか、「だれもが」豊かさを実感できる社会など、絶対に出来っこない事を標榜していたのと比べると、「最小不幸」という言葉は幾分冷静で現実的な響きを感じさせた。つまり、この世から自殺者や犯罪者を一掃することは不可能だが、そうした人がなるべく生まれないよう、教育や社会保障の基盤を整備しようということらしい。早速、自民党からは、社会主義的な発想であり経済のダイナミズムを削ぐとの批判が浴びせられ、一方の社民党からは、不幸な人の存在を容認しかねない理念であるとの危ぐの声が挙がっている。

 これを私なりの解釈で、GS経営に置き換えて考えるなら、すべてのお客様に満足していただける「最大幸福」のサービスを追及するか、生じ得るリスクを可能な限り回避する「最小不幸」のサービスを提供するかの違いと言えるかもしれない。

 言うまでもなく、「最大幸福」のサービスを実践することは不可能である。個々の客の望む事柄をすべてかなえることなどできるはずがない。また、かなえようとすればするほどコストがかさむ。例えば、クレジットも現金も、一万円札も一円玉も、車検も修理も洗車も、まさに“なんでもござれ”の店構えを作るにはいかほどのコストがかかるだろうか。しかも、それらの投資が本当に自分の店に来る客の望むものかどうかをよく見きわめもせず、“これもあれもあれば喜んでもらえるだろう”と安易に導入するなら、それは、手前勝手に道路や橋ばかり作って財政危機に陥っているどこかの国と似たような状態とは言えまいか。

 一方、すべての客を満足させるなどという幻想を捨て、安く、早く、安全に給油ができるという最低限のサービスを維持する経営スタイルは、決してポジティブなものには見えないかもしれないが、きわめて現実的で、少なくとも現在のGS業界の状況下では、最も賢明な方策であると思う。

 元売は需要が減退しているこのダウントレンドの局面において、系列店にブランド料の値上げを求めるという、「あっち向いてホイ!」的な政策を実行しようとしており、GS経営は一段と厳しさを増すことだろう。そんな中で生き残ってゆくには、GSに来る客に「ワクワク」してもらったり、「ほっ」としてもらおうなどと考えるべきではない。「美しい国」とか「友愛政治」なんてキャッフレーズがことごとく失望に終わったのと同じだ。客は必要な量のガソリンが購入できればそれで十分なのであって、「ココロも満タンに」してもらおうとは思っていない。GS経営者は、客に最低限の「幸福」を提供しつつ、自らに降りかかるコストという「不幸」を最小限にとどめることに努力を傾けるべきだ。

 とはいえ、GSに限らず、どんな経営者であれ、「最大幸福」と言えるのは黒字であり、増益である。そのためには、ローコスト経営という殻に閉じこもっていないで、積極的に行動を起こすことも必要ではないかとの意見もあろう。無論、勝算があるならそれも然りである。繰り返しになるが、それが客の「幸福」につながるか、自分の「不幸」を減らすことになるかをよくよく考えて行動すべきだ。性懲りもなく「ほっといても油外が儲かる」などという有り得ない「幸福」をいつまでも追求していると、遂には経営破たんという「最大不幸」を経験することになるだろう。

コラム一覧へ戻る

ページトップへ