セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.319『悲観的であること』

オピニオン

2010-08-09

 防災システム研究所所長の山村武彦氏によると、向こう30年で首都直下型の大型地震が発生する確率は70%、東海地震は87%、三陸沖は90%、宮城県沖は99%なのだそうだ。「降水確率70%ならみんな傘を持つのに、地震の対策はなかなかしない。これは心理学で“認知不協和”と言われる状態で、自分に都合のいい言い訳を作って自分を安心させているから」なのだという。山村氏曰く、「悲観的に準備して、楽観的に行動する」ことが、正しい災害への対処法なのだとか。

 このコラムで「元売が助けてくれるなどという幻想を捨てなさい」とか、「掛売り依存から現金化へのシフトチェンジを急ぎなさい」とか、「油外収益を当て込むより、コスト削減を優先させなさい」など、“わかっちゃいるけど、いますぐそこまでやらなくても”的なことを毎週書き続けているが、まさに「悲観的に準備する」ことを訴えてきたように思う。時に、あまりにラジカルだとのご批判を頂戴することもあるが、耳ざわりの良いことを書く気にはなれない。

 現在のGS業界の置かれた状況は、一切の楽観的な予測を許さないものであり、夢や希望を語る前に、直面する現実の問題をいかに乗り切るかで精一杯のGS経営者がほとんどではないか。今後、ガソリン需要が回復することはほとんど見込めず、さりとて1㍑あたりの利益が劇的に改善されることも期待できない。そんな業界だから、銀行もおいそれと融資してくれないし、元売も商品代金を前金で取立てるようになった。

 私に言わせれば、これらはすべて「想定内」のことだが、この業界にはいまでも“認知不協和”が広く蔓延しているようで、自分に都合のいい言い訳を唱え続けて備えを怠った結果、毎年千ヵ所を越える数のGSが消滅している。こんな業界にいながら「悲観的に準備」しないほうがむしろ異常だと思うのだが…。

 「クライシス・マネージメント」(危機管理)という言葉があるが、これは医学用語の「患者の容態が快方へ向かうか悪化するかの分岐点」を指す言葉が元になっているのだという。その意味においては、GS経営も順調な時期よりも、危機的な状況を迎えたときこそ、思い切った変化を遂げるチャンスといえるのかもしれない。

 私がこれまでにローコスト・セルフ化のお手伝いをしてきた幾つかのGSも、当時、危機的な状況を迎えていた。元売からは“こんなんで、どうやって生きてきゃいいんですか”的な仕入価格を突きつけられる一方で、燃油販売量も油外収益も伸び悩み、まさに「生きるべきか、死ぬべきか」のハムレット状態にあったさなかに、経営者はそれまでの仕入元や取引先、従業員などとの関係を根本的に見直し、ローコスト・セルフへの転換へと舵を切ったことで会社は活力を取り戻した。まさに「災い転じて…」というわけだ。

 同じく“危機管理”と邦訳される言葉に「リスク・マネージメント」という言葉があるが、「リスク」は、古代アラビア語の「明日の糧」を意味する言葉が語源だそうで、「明日の糧」を得るには危険を冒さなければならないという意味を含んでいる。セルフ化にせよPB化にせよ、それを実行に移すのは少なからずリスクを伴うが、「明日の糧」は「悲観的な準備」と同時に「楽観的に行動」しない限り得られないということを肝に銘じなければならない。

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