セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.330『ウォークマン』

GS業界・セルフシステム

2010-10-25

 ソニーが、携帯音楽プレーヤー「ウォークマン」のカセットテープ対応型機種の国内販売を終了すると発表した。インターネットやCDから音楽を取り込むタイプの普及が進み、需要が減少したためで、すでに今春にすべての出荷を終えており、店頭での在庫がなくなり次第、国内市場から姿を消すという。

 1979年に発売された「ウォークマン」は、ソニー創業者・井深大(当事名誉会長)の発案から誕生したと言われている。井深は海外出張の飛行機の中で音楽を聴くための、小型サイズのヘッドホン・ステレオを作ってほしいと社内の技術者に要望した。出来上がった試作品が気に入った井深は盛田昭夫(当時会長)にも視聴させると、盛田は“これは売れる”と直感、二人の絶大な支持を得て「ウォークマン」は発売された。

 ところが「ウォークマン」は、当時ソニー社内において井深と盛田以外のほとんど全員から製品化を反対された。その理由は、録音機能もスピーカーも搭載していない、ただヘッドホンで“聴くだけ”の商品が売れるわけがないというものだった。しかし、盛田の「自分のクビをかけてもやる」との強い覚悟に押されて発売、その結果、これまでに世界中で約2億2千万台を販売するメガ・ヒット商品となった。

 当時70歳を過ぎていた井深と60歳間近だった盛田の、常識に捉われないチャレンジ精神に感服する。しかも、小型化・軽量化・薄型化を優先させるために、再生機能のみで商品化することを決断した。いつでも、どこでも、高音質の音楽を聞きたいという、当初のシンプルな目的を見失わなかったことが、息の長い成功に繋がったのだと思う。

 この発想は、セルフシステムの開発にも当てはまると思う。セルフシステムの場合、安く、早く、安全に給油したいという顧客の根本的なニーズを満たしているかどうかが重要なのだ。サービスポイントを付けたり、顧客情報を集めたり、来店情報を知らせたりすることはあくまで付加的な機能であり、なくてはならないものではない。むしろ、そうしたものがシステムを複雑化し、運営コストを押し上げるものとなってしまっている。

 セルフスタンドの施設全体も、過度の量販指向の大型店が主流となってきた。高い運営コストは「油外」で賄えということでカーケア機能が併設され、それがますますセルフスタンドの重厚長大化に拍車をかけた。「ウォークマン」に例えるなら、カセットだけでなく、CDもMDもラジオ放送も一台で聞けるようにした感じだ。それはもはや「ウォークマン」とは呼べない代物だ。

 この1~2年で、セルフスタンドの建設は急ブレーキがかかったように鈍化し、一方でコスト高に耐えられなくなって閉鎖するセルフスタンドは増加の一途をたどっているが、これは結局、セルフの原点を忘れ、いや、そもそもはじめから理解せずにセルフ化を進めてきたGSがいかに多かったかということを立証している。

 カセットテープ再生プレーヤーとして産声を上げた「ウォークマン」は、幾多の変遷を経てHDD内蔵型オーディオプレーヤーとなって、iPodと激しいシェア争いを繰り広げている。だが、形は変われど、その基本的なコンセプトは、井深大が発案したときから変わっていない。いまや、手のひらにすっぽり収まる最新型「ウォークマン」を見ると、原点を忘れず、シンプルを追求することの大切さと難しさを改めて思い知らされる。

コラム一覧へ戻る

ページトップへ