セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.348『性善説は善か』

オピニオン

2011-03-07

 建設会社で働いている知人から聴いた話。トヨタ自動車工場内の精密機器を製造する施設の増床工事現場で作業をする際,全員カメラ付き携帯電話を没収されたという。企業秘密を守るうえで,当然の措置といえる。一方,京都大学での入試カンニング事件のニュースを見ていて,試験会場にケータイの持ち込みを許していた大学側の監視体制の甘さに驚かされた。

 話は変わって,このあいだ国会中継で,夫が脱サラした時に,それまでの厚生年金制度内では保険料の支払いを免除されていた妻が,国民年金への加入手続きを忘れたために,保険料未納のまま何年も経ち,年金給付を受けられない可能性が出ている状況に対し,「過去2年分の保険料を払えば,10年分払ったとみなす」との救済案が検討されていることについて,「10年分払った正直者がばかを見る」と野党から指摘された厚労相がオロオロになって答弁していた。

 「よもや学生たちが携帯端末を駆使してまでカンニングをするような卑劣なことはするまい」,「夫が脱サラしたなら,その妻は自主的に国民年金への加入手続きをしてくれるはずだ」─こうした,いわゆる“性善説”に基づいた体制や制度が,本来防ぎ得たかもしれない問題を生じさせたとは言えないだろうか。

 セルフスタンドのシステム設計は,性悪説に立ってなされねばならない。セルフが始まった当初,後払い精算方式が主流であったが,これは“入れ逃げ”が頻発し,いまではすっかりなくなった。給油をしてから代金を払いに来てくださいなどとは,お人好しにもほどがある。窓拭き用のタオルや吸殻入れなどをアイランドに設置しているセルフスタンドもあるが,何枚も「借りて」行ってしまう客はあとを絶たないし,吸殻入れには,缶やらプラスチックやらゴムやら,不燃物がこれでもかと詰め込まれている始末。タオルの補充やゴミ処理のコストも馬鹿にはならない。

 油外収益を稼ぐためには,従業員が監視室に引きこもっていてはいけないということで,アテンダーと称して店頭に立っていれば,こちらが声かけする前に,あれを貸せ,これを見ろ,それを直せと無料サービスを要求されることがしばしば。最近では,「また値上げか!」と,消費者の怒りをぶつけられる始末。文句があるならカダフィ大佐に言ってくれ。

 このあいだの雨降りの日には,プリカ券売機にびしょ濡れの千円札を入れようとして,「お札が入らん」と憤慨している客がいた。冗談じゃないよ,券売機が故障したら修理代請求させていただきますよと厳重注意させていただいた。とにかく,一般常識では考えられないような行為をするのが客というものであり,「客は悪さをする」という観点でシステムを設計しておかないと,メンテナンスやセキュリティのコストがかさむばかりだ。

 一方,石油元売はといえば,これは完全に性悪説に基づいて経営をしている。商品代は現金先払い。しかもブランド料をしっかり上乗せして利益確保。エンドユーザーはクレジット化させて,いつでも代理・特約店から取り上げられるようにしておく。自動配送によって他社買いの監視も怠りない。こうしたことを見る限り,元売は代理・特約店に一遍の信用も抱いてはいない。しかし,リスク管理とは元来そういうものなのだ。私にとっては,変な人情が沸いたりせず,むしろ気持ちが良い。性善説を唱える連中は,大抵,カッコ良いことを言って,自らの怠慢や愚鈍を糊塗しているとしか思えないのだ。

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