セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.352『津波が来る!』

社会・国際

2011-04-04

 地震被災地のガソリン不足はいまだに続いている。その根本原因は,せっかく運んでも販売できる場所が少ない,つまり,震災前からガソリンスタンドの数がどんどん減っていたことにある。最新の調査によれば,10年前と比べて,GS軒数は宮城で28㌫減,岩手で27㌫減,福島で22㌫減となっていた。地域によっては,GSの過疎化が顕在化していたところへこのたびの震災が生じ,供給不足をエスカレートさせることとなった。

 我々は,GSが電気や水道やガスに匹敵するインフラであることを改めて思い知らされたわけだが,この混乱に拍車をかけた大きな要因として,今年の2月1日に改正されたばかりの消防法があると思うのは私だけではあるまい。埋設してから40年以上経過した地下タンクに対して2年以内に漏洩防止のための補強工事を義務付けたこの法改正が,ただでさえ経営の厳しい地方のGSの廃業を一気に加速させた。

 一昨年の事業仕分けでは,この対策費用を助成する補助金48億円が“廃止”と判定された。仕分け人の一人からは,「泥棒に追い銭」と断罪され,GS業界で物議をかもしたのは記憶に新しい。GS業界はすき好んでタンクの老朽化を放置してきたわけではないが,40年以上も商売してきて,修繕費用の積み立てもできないような業界は「ビジネスモデルに問題がある」と言われても仕方がない。あの時私は“よくぞ言ってくださった”と仕分け人に拍手したほどだ。

 だが,泥棒呼ばわりまでされたにも関わらず,その後もGS業界は過当競争体質を改めなかった。屈辱をバネにして,採算販売のための努力を業界挙げて取り組むべきだったにもかかわらず,結局,GSを減らし,製油・油槽所を減らし,タンクローリーを減らすという効率重視の安易な合理化に走り,今回の震災で機能不全状態に陥ってしまった。その挙句に,フルもセルフも関係ない,いわんや消防法などクソ食らえと言わんばかりの「ドラム缶スタンド」が設置されるという有様だ。未曾有の緊急事態であるとはいえ,GS業界にとってこんなに情けない事はない。

 今後,震災復興のために国家予算のかなりの部分が充てられることになる。そうなると,これまで以上に補助金の削減が進むのではないか。元売各社も被災地域への重点的な投資を余儀なくされ,その財源として例の「ブランド料」を値上げする,なんてことになりはしないだろうか。あるいは,業転ガソリンの統制を強化する動きが出てくるかもしれない。

 文字通りの津波は去ったが,これからは“経済的津波”が日本中のあらゆる産業に押し寄せてくるだろう。無論,GS業界にもこれまで想定したことのなかった津波が来る恐れがある。「系列だから安心!」,「PBだから有利!」などと言ってはいられない。

 岩手県宮古市では10㍍の高さを誇る町自慢の防波堤を軽々と超える津波が押し寄せた。強固な油外収益力を築いていても,それが今後も防御となりうるかどうか。むしろ,あの日, 多くの人が家で身支度や戸締りなどをしているうちに逃げ遅れたことを教訓として,我々も,避難勧告が出たら即座に逃れられるよう,生活を簡素化させておくことが喫緊の課題だ。そして,避難生活の長期化をある程度想定して,いつも現金を手元に置いておくこと。これらがGS経営において何を意味するかは,もはや説明不要だろう。

コラム一覧へ戻る

ページトップへ