セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.360『ピーチ』

GS業界・セルフシステム

2011-05-30

 いまから数年前に,卸しも手がける中堅GSチェーンは,これからはセルフ,それもノンブランド,ローコストによるセルフスタンドの時代だということで,休眠中のスタンドを改装し,その1号店を立ち上げた。当時社内では,まだローコスト・セルフに懐疑的な見方が支配的で,PBについても,元売ブランドの優越性を信じる人たちが多く,冷ややかな反応だったのだが,1号店は着実に業績をあげ,それと反比例するように,元売ブランドの“正規軍”の収益が年々落ちていった。

 いまやPBセルフこそが生き残るための手段との認識をだれも疑わず,この会社はまもなく2号店をオープンさせ,今後も新規出店はPBセルフとなる計画である。私は,この1号店成功の鍵は,親会社がこのPBセルフに口出しせず,経営の独立性が保たれたためだったと考えている。どうせうまくいかないだろうと半ば放って置かれたことが幸いした。もし,親会社が“バックアップ”と称して,やれ油外はどうだの,カードがどうだのと,正規軍とおなじオペレーションを押し付けていたなら,うまく行かなかっただろう。

 『このほど,全日空が出資・設立した格安航空会社(LCC)のブランド名が「ピーチ」に決まった。関西国際空港を拠点に来年3月から福岡・札幌に就航する予定で,徹底したコスト構造の見直しをはかり,中国やアジア各国のLCCとの価格競争に参戦する。全日空の伊東信一郎社長は,「親会社が関与しすぎて失敗するケースが多い。若干の共食いは覚悟し,経営の独立性を担保したい」と決意を語った』─5月24日付「日本経済新聞」

 この報道を見て,私は前述のPBスタンドの例を思い出した。おそらく全日空社内では,いまだにLCCを“格下”の存在と見ている社員が少なからずいることだろう。もし,今後,全日空が伊東社長の決意とは裏腹に,「ピーチ」を子会社扱いし,親会社に迷惑かけるなと言わんばかりに,経営方針に注文をつけるようなことがあれば“角を矯めて牛を殺す”ことになってしまうだろう。

 1992年に,NTTがポケベル・携帯電話会社を分離し,「ドコモ」の前身である「NTT移動通信」を設立した時,初代社長・大星公二のもとに,社員本人やその家族から「なぜ左遷させられるのか」との抗議が殺到したという。いまや日本最大の通信事業会社も,当時は海のものとも山のものとも判らぬ新規事業会社で,そんな会社に行きたくないと考えている社員が大多数だったのだ。

 ある商社系石油販社の幹部は, やはりPBセルフの1号店を立ち上げようと画策していた。「うちの店舗にもセルフはありますが,フルサービスの店舗よりもコストのかかる代物で参っているんです。社内の意識を変えるためにも,何とかローコストのセルフスタンドを運営して,ショック療法を行ないたいと思っています」と言っておられたが,結局こちらは,社内の抵抗に遭い頓挫してしまい,その後,GS事業は大幅に縮小されてしまった。

 PBセルフは,日本のGS業界で年々勢力を増してはいるが,相変らず“鬼っ子”扱いされていることが何とも腹立たしい。当の元売は,とっくに系列チャネルの成長を見限り,堂々と外販ルートを拡大しているというのに,いまだにコストのかかるブランド販売にこだわるGS経営者は,いかなる心境,いかなる事情で,その道を歩み続けているのだろうか。それほど遠くないいつの日か,全日空と言えば,「あぁ,『ピーチ』の飛行機ね」と言われる日が来ればいいなと思う。

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