セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.384『国民総幸福量』

社会・国際

2011-11-21

 ブータンの国王,ワンチュク5世が王妃と共に来日,ちょっとしたブータンブームを巻き起こしている。インドと中国に挟まれた人口70万人足らず,一人当たりのGDPは日本の数㌫程度という小国がにわかに注目された理由は,“アジアンビューティ”と称えられるジェツン王妃の美貌もさることながら,「国民総幸福量」(GHN)という聴き慣れない指標を取り入れている国だったからではないか。

 金銭的・物質的な豊かさの指標となるGNPやGDPとは異なり,GHNは2年ごとに8,000人を対象とした聞き取り調査を行ない,健康・教育・環境など複数の選択肢の中から「満足度」を尋ねて数値化し,精神的な豊かさを算出するのだそうだ。確かに,お金を稼ぎ,たくさんの所有物に囲まれることが“幸福”だとする生き方は,現代社会においてすでに完全に破綻している。とはいえ,千差万別の幸福の基準を数値化するなんてことができるのだろうか─。

 天邪鬼な私は, 禁欲的なチベット仏教を国教とし,世界最貧国のひとつに数えられるブータン政府が,国民の目をきらびやかな物質文明から逸らせるために,そうした指標を取り入れているんじゃないかと勘繰ってしまう。何せ,テレビやインターネットが解禁されたのが10年ほど前という国である。消費社会の波に呑まれてゆくのはこれからであろう。

 「国民総幸福量」と似たような指標として,「顧客満足度」というものがある。こちらは,我々の業界でもうんざりするぐらい耳にする言葉だ。そして,「元気な挨拶」,「丁寧な言葉遣い」,「てきぱきとした動作」,「整った身だしなみ」などが,「顧客満足度」を高めるための必須条件であるとされている。もし,それが正しいとすれば,私の店のお客様は,恐ろしく不幸せな“国民”といえるかもしれない。挨拶も接客もない,ローコスト・セルフスタンドは,それらの条件が皆無に近い状態だからだ。

 ところが,そんな店が,“大国”である元売販社の大型セルフ店が軒を並べる地域にあって,10年以上も潰れずに何とかやってこれたのは,お客様がガソリンスタンドに求める“幸せ”とは,安く・早く・安全に給油することであるとの基準に固く従ってきたからだ。お客様に直に尋ねたことがないのでわからないが,“我が国”で給油することが「とても幸せ」と答える人はほとんどいなくても,「まあまあ幸せ」と答える人はそこそこいるのではないか。それで十分である。たかがガソリンスタンドではないか。

 『快適なカーライフを提供することで,地域の皆様の幸福に貢献したい』などという大仰な目標を掲げる経営者はいまも多数派だが,結局コストのかかるGS運営によって,経営者のストレスは増すばかりだ。仮に事業に成功して富を得たとしても,その代償として,家庭や健康といったかけがえのないものを失ってしまったら元も子もない。中には,ガソリンを売っている時が一番幸せという人もいるのだろうが…。

 ところで,GS業界にあってはブータンよりも小さな私の店の近所に,来月“超大国”エクソン・モービルのコンビニ併設の大型セルフGSがオープンする。今度こそ踏み潰されてしまうのではといまから戦々恐々としているが,抗う術のない話であり,これまでどおり,出来ることを出来るだけやってゆくしかない。願わくば,これからも家族で温かい食卓を囲むことができますように。それが「セルフスタンド日進東共和国」の生きる道なのだ。

コラム一覧へ戻る

ページトップへ