セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.393『呪縛を断ち切れ』

GS業界・セルフシステム

2012-01-30

 いまから4年ほど前に,ある地方都市で数店舗のGSを経営するAさんが「相談に乗ってほしい」と訪ねてこられた。その会社は,フル・セルフそれぞれ2ヶ所,計4店舗のGSを経営していたのだが,元売から頼まれて新たに直営セルフの委託運営を引き受けた。委託運営なので,販売価格は元売が決める。売れようが売れまいが,運営店には一定の委託料が支払われる仕組みだったのだが,果たして元売が設定したのは,当時の周辺価格を10円近く下回る激安価格。その結果,近隣に展開していた4ヶ所の自社店舗の経営が悪化してしまった。つまり,カッコウのヒナのお守りをしたばっかりに,自分のヒナは全部殺されてしまったヨシキリかホオジロのような存在となってしまったのである。

 A社長は元売に抗議し,仕切り価格の見直しを迫ったところ,「価格調整はできないが,経営改善指導をして差し上げましょう」との返答。その中身は,その会社のセルフはすべて閉鎖し,その代わりにいま委託運営している元売直営のセルフを正式にレンタル運営する。また,フルの店舗については元売販社に運営を任せ,家賃収入をもらうようにしてはどうか─というものだった。「直営セルフで市況を破壊しておいて,経営改善してやろう,しかも自分たちの都合のいいように。これはあまりにヒドイ」と激怒したA社長が私の所に来られたときには,ほとんど決意を固めておられた。私はその背中をそっと押してあげただけだ。

 かくして,フル2店舗のうちの1ヶ所を3ヶ所目のセルフへと改造,それと呼応して業転ガソリンの購入比率を一気に高め,事実上のPB化を図った。委託セルフは元売に返還し,前からあった2ヶ所のセルフ店舗と共に,かねてより商圏内でひとり勝ち状態を詠っていた安売りPB店とのガチンコ勝負を繰り広げることになった。まさに“君子,豹変す”である。その結果,販売量を大きく伸張させると同時に,仕入れコストと販管コストを軽減させ,経営改善に成功した。しばらくは,連日のように地元の組合から説得や哀願を受けていたそうだが,A社長の粘り腰に周辺GSも根負けし,いまではその地域における価格のイニシャチブを握っている。

 一方,居丈高に経営改善を迫った元売は急速に態度を軟化させ,価格対応にも応じるようになった。「業転を一滴でも買ったらマークを取っ払います」と恫喝していたが,4年余り経ったいまも取っ払われていない。当初は,返還されたセルフGSを子会社に運営させて報復するとスゴんでいたらしいのだが,その店舗はしばらくしてから閉鎖され,跡形もなくなっている。『あの時,和田さんに励ましてもらって,思い切って行動してよかったと思いますよ。おかげで前期も黒字決算となりました…』とA社長。とんでもない! すべては,元売や組合の圧力に屈することなくPBセルフ化への転換を決断し実行した経営者であるあなたの力です! どれほど多くの経営者が,あなたのように決断し,行動したいと思いながらもそうできないまま消えていったことか!

 私には,いまだに多くのGS経営者が,窮乏状態で年を越そうとしている時に,食費や暖房費よりも,正月飾りを買うことや年賀状を出すことの方にお金を使おうとしている人に見える。飢えや寒さを我慢してでも,伝統や体裁を保とうとしているのだ。門松やしめ縄が“福”を呼び,年賀状を送った“友人”が助けてくれると信じながら衰弱してゆく姿を幾度も見てきた。PBセルフへの転換は,GS経営者が自らの意志と力で“呪縛”を断ち切ってはじめて成し得る事業なのだ。

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