セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.420『ビールとガソリン』

政治・経済

2012-08-13

 今月10日の新聞に,一面全部使って流通大手「イオン」の意見広告が掲載されていた。『イオンの安さには,正当な理由と,変わらない理念があります』という見出しで,今月1日に,公正取引委員会から酒の卸売り大手三社に対し,「イオン」に原価より著しく安い値でビールを納入したとして独禁法違反(不当廉売)の疑いで警告がなされたことに対する反論が書かれていた。

 それによると,公取による調査の結果,ビール取引きに関して独禁法違反の事実はなかったことが証明されたものの,今後,仕入先から「取引条件変更」,つまり,値上げの要望があった際は,話し合いに応じるようにとの要請を受けたとのことだった。

 『しかしながら,イオンはお客様にご納得いただける理由がない限り,今後も値上げに応じる意向はありません。それは,原材料価格の高騰など,合理的な理由がない中での値上げ要望は,業界の一方的な都合でしかなく,お客様に受け入れられるものではないと考えているからです』(広告文抜粋)─。

 2006年に国税庁の指導を受け,ビールメーカーは販売量に応じて卸売業者経由で小売店に支払っていたリベート(販売奨励金)を廃止したため,卸売り三社はそのカブリ分の値上げをイオンに求めたが応じてもらえなかったということが今回の事件の背景にあるようで,業界内の人間から見れば,大手販売店の専横と言えなくもないが,消費者側にとってはありがたい姿勢と言える。 

 不当廉売といえば,今年の4月に,福井県のGSチェーン「ミタニ」が,周辺GSより最大10円安くガソリンを販売したとして,親会社で卸元の「三谷商事」などに公取の立ち入り検査を受けたというニュースがあった。イオンのような全国規模の事件ではないが,この件に関する事後報告も意見表明も,いまだなされていない。イオンに倣って三谷グループも,「わたしたちは“お客様第一”の理念で,同業他社に比べて何倍もの企業努力を行なっているので,ガソリンを安く提供できるのです」と宣言することはできないのだろうか。

 イオンの意見広告は,今回の公取の要請は『「企業の公正かつ自由なS競争を促進し,消費者の利益を確保する」という独禁法の本来の趣旨に沿うものではない』と,挑戦的であり『公正な取引のもと,おいしいビールを,お求めやすい価格でご提供するために,イオンは,これからもお客様のためにあらゆる努力を続けてまいります』と結ばれている。事の善し悪しはともかく,販売価格というものに対する明確な理念と,価格設定,とりわけ値上げをすることの重さを感じ取ることができる。

一方,原材料価格が下落したわけでもないのに勝手に値下げ競争をした挙句,「下げすぎちゃったので,このあたりでみんなで値上げしましょう」と,年に幾度も“市況是正運動”を繰り返しているどこかの業界には,理念も何もあったもんじゃない。ガソリンとビールの価格では異なる要素もあるかもしれないが,「価格を変える」という行為に対する緊張感というものがGS業界にはまったくない。恐らく,今週中に愛知県でも,130円スレスレまで下がっている価格を140円台に戻そうという動きがあるだろう。消費者,つまり大切なお客様への「合理的な」説明は何も無しに。

 安売りを擁護するつもりはないが,価格を安易に上げる前に,あるいは,安売り業者をお上に訴える前に,自分は「お客様第一」をモットーに,コスト削減の努力をしてきたかどうかを自問すべきだ。イオンで買ってきたビールでも飲みながら…。

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