セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.470『本音』

政治・経済

2013-08-12

 ノルウェーのストルテンベルグ首相が,6月のある日の午後,オスロ市内でサングラスをかけ制服を着て,お忍びでタクシー運転手をしていたことが分り,話題になっている。「市民の本音を聞きたかった」ということで,首相が乗客と話す様子は隠しカメラで撮影され,来月の総選挙キャンペーンに使われるとのことだ。

 日本の時代劇でも,「水戸黄門」や「遠山の金さん」のように,為政者が市井の人々に紛れて悪事を突きとめ,裁きの場で正体を明かして懲らしめるというパターンが人気だが,庶民の中に身を置き,弱きを助け悪しきを挫くまつりごとをしてほしいというのは万国共通の願望ではないだろうか。

 会社経営者の中にも,身分を隠して接客し,客の声を直接聞くようにしている人がいる。また,変装して客を装い,自社の従業員の接客をチェックする社長さんもいるそうだ。やはり,経営の最前線に立つということは大切であり,そこで得るものは多くあると思う。しかし,自称“ひきこもり社長”の私も,ごくたまにホウキとチリトリを持ってフィールドに出ると,やれ「まだ値上がりするのか」だの「窓拭き用のタオルは置いてないのか」だの「ゴミは捨てられないのか」などと尋ねられ,うっとうしいことこの上ない。

 「“うっとうしい”とは何事か,それこそがお客様の声ではないか」とおっしゃる方もいるだろうが,客の言うことをすべて聞いていたら儲けは減り,経費は嵩み,最後には倒産してしまう。大型セルフスタンドがひしめきあう日進市で,とりあえず13年あまり営業を続けてこられたのは,ひとえにお客様のご愛顧によるものだが,同時に,そのお客様からの気まぐれな要望に耳を貸すことなく,頑なにローコスト・セルフの道を貫いてきたからだとも考えている。

 一方,従業員がちゃんと言いつけどおりの業務を行なっているかどうかについては,例えば,会社が委託したドライバーによる覆面サービスチェックなどによって監視するなどの手法がとられてきた。だが,セルフスタンドが増えてきた昨今は“愛想の良いスタッフがてきぱきと対応”する必要はなく,自分で給油するだけ。むしろ,セルフ給油をしている客にスタッフが近づいてきて洗車や点検などを勧めるセルフスタンドは,「ウザい!」とツィッターで叩かれる時代となった。

 このコラムでも再三述べているとおり,セルフは「ノンサービス」ではない。人件費を削った分を販売価格に反映させ,フルサービスより安く提供するというサービスシステムなのだ。さらには“接客”という名のお節介をしないという「サービス」を提供しているのであって,同じ価格なら,フルよりセルフを選ぶというドライバーは少なくない。そうした客の“本音”に耳を傾けようとしないGS経営者は,いつまでもセルフをフルよりも格下だと考え続け,取り残されてゆくのだ。

 ところで,我が国の安倍首相には,タクシーの運転手ではなく,GSの従業員に変装してもらい,来店するドライバーに相対してもらいたい。昨今のガソリン価格は,「アベノミクス」の負の側面が最も顕著に現われたものといえる。酷暑の中,1円でも安いガソリンを求めて給油ノズルを握る国民の生の声を聞いていただき,ついでに,GS経営者の涙ぐましい倹約生活にも触れていただきたいものである

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