セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.483『原点回帰』

GS業界・セルフシステム

2013-11-11

 経営者が好んで口にする言葉の一つに「原点回帰」がある。「自分が原点であると思った場所に帰ること。初心に戻ること」という意味だ。つまり,社長が頻繁にこの言葉を口にするようになったら,“ああ,いま社長は進むべき方向を見失っているんだな。会社は行き詰まっているんだな”と思ってまず間違いない。GS業界も,御多分に洩れず,元売・小売共々「原点回帰」を叫ぶ経営者は多い。

 そもそも,GS業界における“原点”とは何なのか。ある人は,それは「接客である」と言う。石油元売の幹部の方々はしばしば,「販売不振の理由を経営環境や人手不足のせいにする前に,まず自分の店の接客サービスがお客様を満足させるものかどうか,接客業の原点に立ち返って考えてみてください」と,代理・特約店主を前に督励する。さらに,接客のそのまた原点をたどれば,「挨拶」に行き着くして,フル・セルフにかかわらず,大きな声と明るい笑顔と適切なお辞儀をいま一度従業員全員に徹底させよう!と訴える。確かに「挨拶」はサービス業として最も根源的な事柄であり,そんなことを見直さねばならないということ自体,GS業界のサービスの劣化が進んでいることを物語っている。

 一方,GS業界の原点は「価格」にあると主張する人もいる。ただし,この場合異なる二つの意図に分けられる。一つは,我々の原点は燃料油を販売して儲けることなのだから,マージン20円以上を稼いだ“原点”を取り戻そうというものである。しかし,これは原点ではなく,過去を懐かしんでいるだけのことのように思う。専ら,各地域の石商組合の支部長さんあたりが唱えるこの種の原点は,いまや幻想に近い。ただし,これからGSの淘汰がどんどん進み,町に自分の店しか残っていないほどの寡占化が進めば可能かも。つまり,組合員同士の“殺し合い”の果てに実現する世界なのだ。

 もうひとつは,接客原点論に異議を唱える意味で,価格を原点とするという考えだ。つまり「キビキビ・ニコニコ・ハキハキ」で売上げを伸ばそうという考えに懐疑的で,お客がGSに求める原点とは,できるだけ安く給油できることなのだというのである。石油元売や石商組合が最も恐れ,忌避する思想である。しかし,これを“原点”としているGS経営者の多くは,そもそもそこへ“回帰”する必要がない。なぜなら,この原点にしっかり留まっていて,そこからさまよい出ることがないからだ。ガソリンを他店より安く売ることを軸に据えたうえで,10銭でも安く仕入れることや,運営コストをできる限り抑えることや,採算性の取れる油外販売を手がけることを日夜考えているのであって,ブレることがあまりないのである。

最 近,セルフ化による量販効果があまり見込めなくなったとみえて,「フルサービスへの回帰」を言い出している元売もある。大型セルフ店をばかばか作って,多くのフルサービス店を駆逐しておきながらよう言うわとも思うが,やはり原点の大切さを肌身で感じているのだろう。また,システマチックな仕切価格制度を推し進めた結果,傘下のGSが次々に離脱・独立してゆくことに危機感を感じ,営業所を再び増設し,セールスマンを増員してコミュニケーションを取り戻そうとしている元売もあるようだ。「より強固なパートナーシップを構築してまいります」という言葉を果たして素直に受け入れてもらえるかどうか。蒔いた種は刈り取ることになる。原点を蔑ろにしたツケは決して小さくない。

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