セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.499『減災』

オピニオン

2014-03-10

 やはり,この時期になると東日本大震災について考えざるを得ない。津波が瞬く間に街を壊滅させる様子を動画サイトなどで見ると改めて慄然とする。1万8千人を超える死者・行方不明者,25兆円とも言われる経済損失など,計り知れない打撃を被った東北地方だが,三年経ってなお復興がままならない最大の原因は,やはり原発に尽きる。約15万人がいまも避難生活を送っており,その大半が故郷に帰ることを断念しているという。

 東日本大震災でガソリンスタンドの燃料貯蔵タンクが流されることはなかった。タンクは地下にあるからだ。ところが,福島第1原発の非常用発電機の燃料タンクは屋外にあって津波で破壊された。そのため緊急炉心冷却装置などの安全設備が機能せず,その後の連鎖的な事故拡大につながった。国や電力会社が絶対安全だと言い続けていた原発の津波に対する耐久性はガソリンスタンド以下だったというわけだ。

 そもそも,人間の手による物事で“絶対”といえるようなものなど絶対に存在しない。どれだけ強固で高大な防波堤を築いたところで,人間の予想をはるかに超える災害がそれを木っ端微塵に打ち砕いてしまうことを私たちは思い知らされた。「防災」などというものは,およそ人間の傲慢さから出た発想であり,むしろ,災害による痛手をいかにして少なくするか,すなわち「減災」という考えに立った謙虚な姿勢で災害対策に取り組むことが肝要である。

 例えば,京都の五重塔は心柱と呼ばれる支柱が五つの層を貫通しているのだが,この心柱は各層とは溝穴に突起物がはまっているだけの構造なので,地震が発生した時に心柱がやじろべえの軸のような役割を果たして柳のように塔全体をしならせ倒壊を防いでいる。その技術は,高層ビルの免震構造に応用されているのだそうだ。また広島の厳島神社は,水上の回廊が固定されていないため,高波が押し寄せた時に本殿が破壊されないよう衝撃を吸収する仕組みになっており,これまた現代のウォーターフロントの設計に取り入れられている。

 古代の人々は,災害の破壊力を謙虚に認め,それに負けない物を作ろうとするのではなく,その力をいかにして減じるかを研究し,今日まで存在するほどの耐久性を持った見事な建築物を設計・建造したのである。それにひきかえ,現代の科学技術のお粗末なことといったら。コンクリートを分厚くすることしか能がないように思える。

 実際の建築物に限らず,会社経営も「減災」の発想で行なうべきなのかもしれない。とりわけガソリンスタンド業界は,需要の減少という震動と,製品価格の高止まりによる暴風雨とで一年中生活を脅かされている。それらを販売量を伸すことで跳ね返そうとして安売りを仕掛けるGSがとりわけ元売系列販社によく見られるが,採算を度外視したそのような力ずくのやり方には限界がある。やはり,ある程度の被害,すなわち需要減や物価高などによるダメージを想定し甘受したうえで,それに耐えうるコスト競争力を保持することが現実的だと思う。セルフはまさに「減災」的なシステムなのだ。しかし,それもまたあくまで相対的なものであって,絶対的な安心をもたらすものではない。世の中では想定外の出来事が起こること,人知では抗し得ない力が存在することを我々は三年前に学んだはずである。

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