セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.519『ドキュメント72時間を観て』

GS業界・セルフシステム

2014-08-04

 いまから7年も前に,このコラムでこんなことを書いた─。

 『NHK総合テレビで,毎週火曜日午後11時から放映されている「ドキュメント72時間」という番組をご存知だろうか。ある特定の場所に三日間カメラを据え,そこを訪れては去ってゆく人々を捉えながら,社会の断面を浮き出させるという,なかなか面白い番組なのだ。

 『この番組で取り上げられた場所は,バスターミナル,宝くじ売り場,バッティングセンター,マンガ喫茶,リサイクルショップなど実に様々。そこで繰り広げられる“日常のドラマ”は時に心温まり,時に切なく,哀れでもある。残念ながら今週の火曜日が最終回なのだという。私としては,この番組で,ぜひともガソリンスタンド,それもセルフスタンドを取り上げてほしかった』─。

 その後,この番組は,2012年に“つなぎ番組”として計4回の単発放映のあと,昨年4月から,第2期のレギュラー番組として毎週金曜日22時55分から放映されるようになった。そして,先月25日に,遂に『どしゃぶりのガソリンスタンドで』と題して,6月6日から3日間,模原市の宇佐美鉱油が運営するセルフスタンドに来店する人々を取材したドキュメントが放映された。ご覧になった方も大勢おられるだろう。

 離婚したあと,引き取った子どもを児童養護施設に預けて長距離トラックの運転手として働く男性。6年前の交通事故による後遺症を抱える夫を助けながら,同じような境遇の人たちと連絡を取り合い前向きに生きる40代の主婦。離婚した娘の子どもを預かりながら全国のフリーマーケットを渡り歩いて竹とんぼを売っているという老夫婦。10年前に奥さんがくも膜下出血で突然亡くなってしまい,それがきっかけで当時6歳の息子がイジメにあうようになり小学校時代は不登校に。子どもと接する時間を多くするため,会社を辞め独立したものの大変だと語る40代の男性─。

 3日間に取材した客の中から,とりわけ厳しい境遇の人を選んで編集したことぐらいわかってはいるが,それでも,世の中には,自分なんかよりずっとずっと苦労しながら働いている人たちが沢山いるのだなと感じ入った。しかし,同時に,“これ,GSが舞台でなくてもいいんじゃないの?”とも思った。この番組は,その場所にいる人たちの,“なぜそこに来たのか”“なぜそれを買うのか”といった事情を聞くことで,様々な人生模様が描き出されてゆくところが興味深いのであって,GSにはその要素が欠けている。恐らく,取材した人のすべてが,「ガソリンが減ったからここへ来ました」と答えたであろうから,GSという場所そのものには何のドラマツルギーもない。

 例えば,「ここはこの界隈で一番安いから来た」という人を取材したら,「最近失業して少しでも安いガソリンを入れなくちゃならない」とか,「ここはセルフなんで」と答えた若者にその訳を尋ねたら,「フルサービスのスタンドであれこれ勧められるのを断るのが辛いから」という答えが返ってきたとか,「家はどこそこなんだけれど,うちの近所にあったGSはみんな潰れちゃったものだからここまで来てるんです」なんてことを言う客がいたりすれば,GS,とりわけセルフで給油する人たちの「いま」が見えてくるし,GS業界の「いま」も浮かび上がってきたのではないだろうか。

 ─と言うわけで,今回は失敗作。所詮,GSという場所は,好きで行くところではないのだからドラマも生まれにくいのかもしれない。

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