セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.537『うわさ話』

オピニオン

2014-12-08

 1973年12月8日(土),愛知県豊橋駅と長野県辰野駅を結ぶJR飯田線の車内で,下校中の女子高生三人が他愛のないおしゃべりをしていた。地元の信用金庫への就職が内定した女子Aを,友人の女子BとCが「信用金庫は危ないよ~」とからかう。彼女たちは,金融機関は強盗に襲われるから,という冗談でそう言ったのだが,その言葉を真に受けたAは,帰宅すると,親戚Dに「信用金庫ってアブナイの?」と尋ねた。

 Dは“信用金庫”とは地元の豊川信金のことで,「アブナイ」とは,経営状態が危険という意味と思い,豊川信金本店の近くに住む知人Eに電話をかけ,「豊川信金って危ないのか」と問い合わせる。翌日,Eが近所の美容院でこの話をしたことから急速にうわさが広まってゆく。そして,「職員が使い込んだ」だの,「理事長が自殺した」だのと,デマに尾ひれがついて拡散した結果,一週間足らずの間に約26億円もの預貯金が引き出されるという大パニック事件となった。この事件は,勘違いや思い込みなどによってもたらされる風評被害のメカニズムを知るうえで格好の事例とされ,社会学や心理学の教材としてしばしば取り上げられるそうだ。

 「うわさ話」が存在しない世界など,存在しない。しかも,事実とは程遠いまったくのデマであるということが少なくない。また,仮に事実であったとしても,そこにいろいろな推測や私見が加わり,当事者や関係者の評判や信用を損なう場合もある。ひとむかし前のGS業界だと,PBスタンドがガソリンを安く売っている理由を,「あそこのガソリンはまともな代物じゃあない。粗悪品だよ。あんなの入れたら車壊れちゃいますよ」と,客に言いふらす人たちがいた。確かに,中には本当に粗悪ガソリンを売っていた連中もいたのだが,いまでは元売マークのGSが品質分析を1年に1回しか行っていないのに対し,PBスタンドは年36回も行なっている。PBスタンドのガソリンのほうが安心だと言いたい。

 かつて,東海地方の安売り量販で知られたGSチェーンが,全店一斉に休業したことがあった。すわ“○□石油倒産か”とうわさが周辺のGSに広まり,元売や組合も事実確認のため動き出すという一幕があったが,結局「社員研修のため」ということで,半日足らずで沈静化していった。“あの安売り店,困ったものだ。潰れちまえばいいのに”という希望的観測が,多くのGS経営者たちを色めき立たせたのだろうが,間抜けな話である。

 一方,ある外資系元売の特約店が“マーク換え”の相談を某商社に持ちかけたとのうわさを聞いた別の商社は,その元売の系列店は総じて仕入れ価格に対する不満がたまっているのではと推測し,重点的にそのマークのGSに営業活動を行なった結果,短期間に数社のマーク換えに成功したという事例もある。かつて,阪神・江夏投手に抑え込まれ悩んでいた巨人・川上監督は,甲子園球場での試合前のベンチで,記者同士が「江夏は不整脈。芦屋の病院へ行ったのを取材した」と会話しているのを耳にし,「それならバントでいじめよう」とひらめいた。狙いは的中し,江夏は幾度もライン際におびき寄せられ,スタミナを消耗して降板した。要は,常にアンテナを張り巡らし,引っ掛かったうわさ話を冷静に分析することで,有効な手を打つこともできるということだ。

 原油価格はまさに“うわさ話”によって時々刻々と変動する代物だ。午前中に,原油価格は下げ止まりだとニュヨークのヘッジファンドつぶやいたかと思えば,午後には米国の雇用指数がどうだの,中国の不動産価格がどうだのといった理由で,まだまだ下がるとうわさされる。元売・商社からGS経営者にいたるまで,石油業界人はそうしたうわさ話に翻弄されながら,少しでも安い商品を仕入れ,利ザヤを稼ごうと日夜奮闘しているのである。

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