セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.541『燃料電池車』

政治・経済

2015-01-12

 昨年12月,トヨタ自動車は世界に先駆けて一般向けに燃料電池車(FCV)「MIRAI」を発売し,次世代環境車の本命として力を入れている。それと同時に,同社は単独で保有する燃料電池関連の全特許5680件を無償で提供することを決定した。経済誌『東洋経済』は,「通常のコンシューマ製品なら,特許の壁を築き他社が追随できないようにして利益を享受するという考え方もある。だが,ゼロからのスタートとなるFCVの場合,他社が参入してくれなければ,水素ステーションなどのインフラ整備も進まない。トヨタ1社でFCVの普及は進められないのだ」と解説している。

 経済系ニュースサイト『ビジネスジャーナル』は,そのインフラ整備について,既存のガソリンスタンドに言及し,「GSの運営をみてみると,実は石油元売り会社直営のケースは少なく,いわゆるフランチャイズ形態である。その数が伸びていた時期には,元売り各社からの働きかけにより,他社への看板替えも頻繁に行われた業界なのだ。ということは,ビジネスの流れによって,水素ステーションへの転業にも抵抗がない業界なのである。筆者がもし水素ガス元売り会社の社長だったら,営業部隊に大号令をかけて,経営が順調でないGSを一斉に一本釣りして業態転向をさせ,一気の陣地取りをするだろう」としている。

 まったく簡単に言ってくれるぜ。既存のGSを「業態転向」させるといっても,使えるのはキャノピーぐらいのものだろうから,ほぼ建て替えに近い。水素ステーション1ヶ所あたりの建設費は,その場で水素を生産する「オンサイト型」で5億円,ほかの工場で水素を生産して充填する「オフサイト型」で1億5千万円程度といわれているから,「 経営が順調でない」中小零細GSが,自己資金で“水素化”するのは困難だ。仮にもし,そんなGS(水素だからHSか)が近所に現れたら,経営者にはまず,(国や自治体から)“なんぼ出してもらったの?”と聞いてみたい。

 一方,資金力のある会社は,すでに動き出している。先月,岩谷産業とセブン・イレブンは,店舗併設に関する合意書を締結。2015年度に,東京都と愛知県に水素ステーションとコンビニの併設店舗2店舗を順次オープンすると発表した。両社の将来性と日用性を融合し,地域インフラの確立を目指すそうなのだ。それにしても,相変わらずの“コンビニとコンビ”かと苦笑してしまう。「エコスプレス」とでも命名するのかな。なお,前述の『ビジネスジャーナル』は,岩谷産業の年商は現在5千億円ほどだが, 水素ステーション参入で2030年には7兆円超のJXのそれと拮抗するようになるだろうと“予言”している。いまのうちに岩谷産業の株,買っとこうかな…。

 しかし,そもそも水素というのは掘れば出てくるようなものではなく,水(H2O)のようにほかの元素と結合した化合物から抽出しなければならず,その過程でCO2を排出することもある。また,建設費が比較的安いオフサイト型が増えてゆけば,別に巨大な水素工場の建設が必要になるわけだし,重い高圧水素ボンベの輸送にもエネルギー消費と費用が発生する。もし,それらのインフラ整備中に,画期的な電池が開発・量産化されるようなことになれば,FCVは一気に不利な立場に追い込まれかねない。それゆえ,過度にFCVに傾注せず,小排気量ターボ,クリーンディーゼル,ハイブリッド,プラグインHV,電気自動車など多様な組み合わせの中で,最適な環境対応を目指すべきだとの意見もある。さもないと,日本の自動車が,かつてのソニーのベータ方式のように,「ガラパゴス化」する恐れがあるのだと。

 いずれにせよ,この問題はもうしばらく成り行きを注視していたほうが良さそうだ。

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